平昌五輪スノーボード観戦がもっと面白くなる!?
韓国・平昌を舞台に開催される第23回冬季オリンピックの開幕が迫ってきました。
スノーボードがオリンピック正式種目に加わったのは、1998年の長野オリンピック。当時はハーフパイプとスラロームの2種目のみでしたが、日本を舞台に地上波で世界基準のスノーボードが見れる貴重な機会でした。
特にハーフパイプでのパフォーマンスは少年だった僕たちの心をがっちりと掴み、フリースタイルスノーボードが急速に広がっていくのを肌で感じました。
あれから20年、現在のトリックは複雑化し、スノーボードをよく知る人でさえ見分けられなくなっているのが現状です。
そこで今回、北海道でSAJ / FISの国内大会のジャッジを務め、数多くの大会を観戦してきたIさんに、平昌オリンピックのスノーボードについて、見どころと楽しみ方を聞きました。
INTERVIEW “I氏”
for the watching olympic snowboard
moro : スノーボード競技の中でも花形ともいえる現在のハーフパイプシーン。年々、技の難易度が上がっていますよね。平昌オリンピックでも相当レベルの高い戦いになることが予想されますが、ジャッジから見た注目ポイントを聞かせて下さい。
I氏 : ハーフパイプ(HP)やスロープスタイル(SS)、ビッグエアー(BA)についても言える事ですが、近年は回転数が増えていて、よくよく見なければ何回転か分からないですよね。
ハーフパイプの基本は、今も昔も”高さとグラブ”です。ヘッドの高さで演技をするのか、Wヘッドの高さで演技をするのか、更に今ではトリプルの高さで飛んできます。
ドロップしてからフィニッシュまで5~6の演技を行いますが、全ての技が同じ高さで出来たか、何処かで低くなってしまったかで評価は大きく変わってきます。1発目の演技はとても高く飛べたのに、その着地でミスすると2発目は高く飛べなくなりますよね、そうすると次からの技で無理に回転数を増やしても高さが出ないので、どうしても点数が伸びなくなります。
一見同じような演技している様に見えるかもしれませんが、そういったポイントを見ていくと、何故点差が開くのかを少し理解してもらえるかと思います。
金メダルへのカギは技のコンビネーション
I氏:ソチの覇者ユーリ・ ポードラチコフがキャブ ダブル コーク1440 を決めて金メダルを取りましたが、今回の平昌オリンピックでは、更に難易度の高い内容での戦いになると思います。
各選手オリンピックまでに更に完成度を上げてくる大技もあるでしょうが、注目ポイントとしては、コンビネーションをいかに組み合わせるか、だと思います。例えば、フロントサイドの壁でダブル コーク1080をした場合、着地でスイッチになるのでバックサイドの返しはキャブダブルコーク1080で返すことが出来ますが、そのフロントでの回転数を上げてダブル コーク1260 をした場合、バックの壁はレギュラーで向かう事になります。そのバックサイドでどんなトリックを打つかが、ルーティーン全体の難易度に影響します。
ハーフパイプではスロープスタイルやビッグエアーと違い、バックサイドのスピンが難しく、実は苦手としている選手も多いんです。バックサイドでもフロントのような高回転技を見れることが少ないのはその為です。今までは多くの選手がCABの技で逃げる方法を取ったり、バックサイド540や900を見せていましたが、今回の平昌で上位に食い込むにはバックサイド1260が必要になると予測できます。
今シーズンはフロントの壁でスイッチのバックサイドスピンをやる選手がいますし、多くのトップ選手が高さのあるスイッチのバックサイドスピンを仕上げてくるのではないでしょうか。
更に、前回金メダルの決め手となった大技、キャブダブルコーク1440だけでは金メダルに近づけません。コンビネーションでのダブルコーク1440からのキャブダブルコーク1440を誰が出すのか、誰が決めるのかが最大の見所になると思います。
moro : Dew TourやX-Gamesではなく、トップ選手が国旗を背負って一堂に会するオリンピックゲーム。オリンピックならではの観戦の面白さやみどころ、期待している事はありますか?
I氏 : 既に出場選手が決まっている国もありますが、現時点(1月15日現在)では、日本の出場選手はまだ全員決まっていません。国によって出場枠があり、日本人選手は日本代表に入れるようにワールドカップで戦っている最中です。
スノーボードを実際にやっている人は、人気があるスポーツと思われるかもしれませんが、スポーツ全体の割合から見るとまだまだマイナースポーツであり、やはりお金のかかるスポーツでもあります。
私が期待していることは、今回のオリンピックを見てスノーボードを始めてくれる人達が増えること、競技者として頑張ろうと思う選手が増えること。そして、そんな競技者達の支援をしてくれる企業が増えてくれる事、これが1番の期待ですね。
次々と起こるスポーツ業界の不祥事がメディアを賑わせていますが、スノーボードもその渦中にありました。色々な面でマイナスイメージがついたことは確かです。しかし、それ以上の感動を今回のオリンピックで日本代表選手が世界に発信してくれると思います。ファンの期待はもちろん、関係者や業界からの期待を背負って代表選手たちはオリンピックへと向かいます。最高のパフォーマンスを大変楽しみにしています。
見逃せないドリームバトル!ジャッジの注目選手は誰?
moro : 平昌オリンピックでは、パラレル大回転・スノーボードクロス・ハーフパイプ・スロープスタイル・ビッグエアの5種目。今大会は新種目としてビッグエアが加わりました。Iさんの注目競技と注目選手を教えてください。
I氏 : 特にハーフパイプ・スロープスタイル・ビッグエアーの3競技は、知っている選手が多いので注目しています。
スロープスタイルとビッグエアーでは、前回ソチオリンピックで大会前にケガをしたにも関わらず銅メダルを獲得したカナダのマーク・マクモリス。本人としては銅メダルは不本意な結果だったのでは?と思います。大会に出れば常に表彰台の彼が、オリンピックの金メダルが欲しくないはずはないので、どんなパーフェクトな演技をするのかが楽しみです。
現在のスピントリックの最先端クワッドコークを完成度高く操るノルウェーの18歳、マーカス・クリーブランドにも注目です。どんなアイテムも他の選手とは違う発想の滑りをしてくれるでしょう。また、ビタビタの着地で魅了してくれると思います。
ハーフパイプではオーストラリアのスコッティ・ ジェームスですね。最年少でバンクーバーオリンピックに出場、続いてソチにも出場していました。結果は良くは無かったものの昨年の各大会から見違えるような存在感と演技力で表彰台常連者となり、現在金メダル最有力候補として注目しています。高身長ならではのダイナミックなスピントリックが魅力です。
これだけの注目選手が並ぶ中、未だアメリカ代表は確定していませんし、日本代表も内定者待ち、といった状況なのでコメントは控えさせてもらいますが、ハーフパイプ大国であるアメリカvs日本の争いは、まさにドリームバトルになる事でしょう。
SSコースレイアウトに変化の兆し?
コンディションとコース事情
moro : 開催地は日本からそう遠くないので、日本人選手にとって有利な雪質ではないでしょうか?また、前回のソチオリンピックではパイプの形状や、スロープスタイルでのパークの作りがオリンピックという舞台にふさわしくない、という批判的な意見もありました。予測できるコンディションと対策などがあれば教えてください。
I氏 : 開催地や雪質などが、日本人にとって有利・不利になるという心配は要らないと思います。世界各国を渡り歩いている選手ですし、作られるコースの雪は人工雪がメインだと思いますから、ハードなコース状況下でトレーニングしている選手にとって大差はないはずです。
ソチオリンピックでは、暖冬によりコース状況がパーフェクトではなかった部分もありましたが、そこは運と選手の技量が問われるところです。特に日本人選手は他国と比較して、どんな状況下でもハイパフォーマンスを出せる技量があります。視点を変えるとコンディションが若干悪い方が、本来の実力が見えることになるかもしれません。
いずれにしても、オリンピックという最高の舞台でに相応しいコース状況になることを願っています。
ハーフパイプに関しては、高さや長さは近年変わりないと思いますが、”R”の形状が選手の技の出しやすさ・着地のしやすさに大きく関わってくると思います。スロープスタイルのコースレイアウトはインターネット上にアップされていますが、ここ数年のスロープスタイルの大会を見ると、コースレイアウトの中にR形状のアイテムが多々含まれているのが分かります。
キッカーを飛んで鉄物擦って、といった滑りの他に、キッカーでもR系の強い飛び方が出来なければ技が出せないんですね。これは、本当の意味で総合滑走が出来ないといけないコース状況だと言えます。
これからスロープスタイルで世界を舞台に戦いたい子供達は、ハーフパイプも滑られるように練習しないといけませんね。
スノーボードクロスのコースも、面白いコースになっていると思います。選手は怪我をしないよう全力で滑らないといけないでしょうが、観客側からするとスリリングで最高に熱い戦いが見られそうです。
進化する高難度技や新スタイル
ジャッジも試されている!?
moro : 2015-2016シーズンの X-GAMES ASPEN HPの決勝、ダニー・デイヴィス君が型破りなルーティンで優勝した事は記憶に新しいです。彼の見せたスイッチトリックを多く取り入れたルーティンは現在の採点方法に影響を及ぼしたのでは?
I氏 : そうですね。ダニーの演技は斬新でしたね。人とは違う滑りというか、これからの進化を考えた滑りの始まりだったように思います。
古い話ですがロスパワーズというアメリカの選手がX-GAMESでB720からのスイッチマックツイストをやっていたのを見て驚いたのですが、その後スイッチバックの技を極める選手は多くいませんでした。
ダニーが出したB360からのスイッチトゥイークのように、これまで誰も使っていなかった選択肢を埋めていくような発想は、他の選手を大いに刺激し、回転数を増やすだけではない技の進化を加速させたと思います。
しかも最近では個々のスタイルもガッチリ出して、格好良いですからね!ですが、競技である以上、演技には高さも必要になりますし、変わった事をすれば点が出る訳ではないですから、ジャッジはその技の完成度が高いのかどうかをしっかりと見極めなければいけません。技の進化と同時にジャッジ泣かせな状況が増えたのは事実でしょうね。
moro : ソチオリンピックではでは3つのメダルを獲得し、ワールドカップ優勝者など強豪揃いの日本スノーボード陣。ズバリIさんのメダル予想をお願いします。
I氏 : 気持ちとしては5個ぐらいは欲しい!ですが、そんなに世界は甘くないというのが現実です。1つでも金メダルを持ち帰って欲しいですね!
moro : 楽しみになってきました。今回は貴重なお話を、ありがとうございました。
スノーボード競技のルールと
採点のポイントをおさらい
スコアリングジャッジは6名。各100点を持ち点とし減点法で採点します。
その中の最高点と最低点を除いた平均点が公式スコアとなります。
各選手2本滑ることができ、ベストスコアで順位を競います。
採点のポイントとなるのは技の難易度・完成度・高さ・多様性、空中での姿勢とグラブ、安定感、そして全体のルーティーン等が挙げられます。
着地の際に手を付く、お尻を付く、転倒は減点対象となり、演技全体に大きな支障となります。失敗は出来ない、という緊張感は観戦していてもハラハラドキドキです。
特にハーフパイプでは、スノーボード最大の魅力である多彩なトリック、回転・フラット・スピンが次々と繰り出されます。難易度の高い3Dトリックも見どころとなるでしょう。
2018年2月9日から25日まで韓国で開催される平昌オリンピック。スノーボード競技は2月10日から予選が始まります。平昌は時差がほぼ無い(最大30分)ので、これまでのオリンピックと比較してもLIVE中継で観戦しやすい大会です。
スノーボーダーだけでなく、多くの方の目にスノーボードが触れるという点でも期待しています。
平昌オリンピックスノーボード競技の試合日程
2月10日10:00 男子スロープスタイル予選
2月11日10:00 男子スロープスタイル決勝 女子スロープスタイル予選
2月12日10:00 女子スロープスタイル決勝 13:30女子ハーフパイプ予選
2月13日10:00 男子ハーフパイプ予選 女子ハーフパイプ決勝
2月14日10:30 男子ハーフパイプ決勝
2月15日10:00 男子スノーボードクロス決勝
2月16日10:00 女子スノーボードクロス決勝
2月19日09:30 女子ビッグエア予選
2月21日09:30 男子ビッグエア予選
2月22日12:00 男女パラレル大回転予選
2月23日10:00 女子ビッグエア決勝
2月24日10:00 男子ビッグエア決勝 12:00男女パラレル大回転決勝
※時間は現地時間です。(競技日程は変更の可能性があります。)