ワックスの形状と特徴を知り
シーンに応じた使い分けを
3月に入ると、滑走スピードを奪う湿雪が増えていきます。今シーズンの北海道は例年よりも早い時期から湿雪~ミックスコンディションとなっているので、ワックスの力を借りたい人も多いことでしょう。
さて、店頭にずらりと並ぶスノーワックスの数々。どう選べばいいか、迷っていませんか?
近年は、高機能な簡易ワックスが普及し、セルフワクシングの選択肢が増えています。ただ、よくよく比較してみると、やはりどのタイプのワックスにも一長一短があり、一言で「コレさえあれば」とは言い切れません。
そこで、この記事ではMOJANEのワックスラインナップを例に、スノーワックスの基本的な使い方と選び方、よくある質問をまとめます。
春雪対策には過去記事北海道の春雪とセルフチューンナップも併せてご覧ください。
ベストワックスは、何を重視・許容するかで決まる

例えば、作業環境。自宅に作業スペースがある方もいれば、宿泊先で仕込みたい方、車内や現場で行いたい方もいるでしょう。
他には、手持ちの道具や予算。準備時間がどれだけあるか。滑走日数や行先。目的によっても優先順位は変わってきます。
この先長く乗り続けたい大切なボードであれば、手間と時間が必要かもしれません。環境への配慮を重んじるなら、使用感や効果は多少劣るかもしれません。大会を控えている選手なら、ワックスの禁止成分や、それらを使った道具にまで気を遣わなければいけません。
特定の雪質にバチっと合った走りを求める人もいれば、ワックスに頼り過ぎない自然な走りを好む人もいます。
「どのワックスが良いですか?」という質問の答えは、こうした個々の条件次第です。
MOJANEでは、ワックスブランドは絞りつつも、ツーリストから選手までに幅広く対応できるようなラインナップを心がけています。
ワクシングの基本

一般的なワックスは、固形、ペースト、リキッドといった形状に関わらず、ベース用と滑走用(トップワックス)があり、温度帯で選ぶもの、特定の雪質に特化したもの、環境を選ばないオールマイティータイプなどがあります。
ワックスのパッケージに詳しい使い方が表記されていないこともあるので、なんとなく使っている方も多いと思いますが、簡易ワックスであっても、正しい手順で使う事が効果に繋がります。
ワクシングの手順(全ワックス形状共通)
①滑走面の汚れを落とす
スクレーピングとクリーニング用ブラシで滑走面に付いた汚れや残留ワックスを丁寧に落とし、すっぴん状態にします。汚れが酷い場合はクリーナーを使用しましょう。
②ベースワックスで下地作り
滑走面のコンディションを整え、滑走ワックスの効果と持続性を高めます。繰り返すほど滑走面に汚れがつきにくく/汚れが落としやすくなります。ベース不要ワックスの場合は③へ。
③滑走ワックスで仕上げる
温度帯や雪質に応じた滑走ワックスを重ね、仕上げ用ブラシで磨き上げます。
絶対に持っておきたい4つのツール

最低限の道具とワックス(ベース+滑走)を一通り揃えようとすると、ざっくり1万円程度の予算が必要になります。
クリーニングブラシ/仕上げ用ブラシ/スクレーパー/フィニッシュ用クロスは、どんな形状のワックスにも必要なツールです。
特にブラシは価格帯が幅広いですが、高品質であることよりも、まずは揃えることを優先してください。また、これらは消耗品なので、徐々に自分好みの形や材質に目を向けてもらえればと思います。
この他、ゴム手袋やペーパータオルなどもあると便利です。適宜ご用意ください。
ワックスのタイプと使い方
固形|持続性重視なら固形ワックスをホットワクシングで

固形タイプのワックスは、アイロンの熱で滑走面に浸透させるホットワクシングか、生塗(滑走ワックスのみ)で使用します。
ワックス効果の持続性を求めるならホットワクシングがダントツです。
ホットワクシングを繰り返してきたボードは、軽くブラシ掛けをするだけでも滑走面がツヤツヤになります。道具や場所、手間を要しますが、後々のお手入れが楽になるのと、滑走ワックスの持続性がかなり高まると感じています。
興味がある方には、オフシーズンの間だけでもぜひ挑戦してもらいたい!
固形ワックスを滑走面に直接こすりつけるように塗る「生塗り」は、現場での応急処置として役立ちます。
小さな固形ワックスはウェアのポケットに入れて常に携帯できるので、現場では最も使い勝手が良いワックスです。
固形ワックスの特徴
メリット:持続性が高い。種類が豊富。携帯しやすい。
デメリット:ホットワクシングの道具が必要。時間がかかる。ワックスの削りカスが散るので室内環境にも配慮が必要。
ペースト|どんなシチュエーションでも扱いやすい、最も手軽なワックス

少ない道具で完了する手軽さと、保管・携帯のしやすさがあり、応用力の高いワックスタイプです。
瞬間的な走りならホットワクシング以上にも感じられる優れモノですが、ホットワクシングほどの持続性はありません。
ペーストワックスの使用法は、クリーニング後の滑走面に薄く擦り込むように塗り広げて良く乾かし、軽くブラシを掛けて仕上げます。
ポイントは「塗ったペーストを完全に乾かすこと」。滑走前日にペーストを塗って一晩おき、当日ブラシをかけると効果的です。
極寒用の硬いペーストは、暖房の利いた室温くらいまで温めるとスルスルと塗りやすくなります。また、ホットワクシングの仕上げにペーストワックス(滑走用)を使うと、持続性がUPします。
ペーストワックスの特徴
メリット:最低限の道具で施工できる。作業汚れが少ない(仕上げのブラシ掛けで多少粉が出る程度)。
デメリット:滑りに行く前は毎度作業が必要。溶けやすいので、暖房の利いた室内や夏場の保管に注意。
リキッド|最小限の道具と時間で効果抜群(取扱い注意)

短い作業時間で高い効果と持続性が得られるのがリキッドタイプのワックスです。
クリーニング後の滑走面に直接垂らして伸ばし広げるか、ペーパータオルやフィニッシュクロスなどに浸みこませてワイプします。
低価格のものはいわゆる応急処置レベルのものも多いようですが、高価格帯(4000円以上)になるとスピードが出過ぎてしまう事すらあります。念のため、お子様のスキー学習のために仕込むことは避けたほうがよいでしょう。
また、リキッドワックスは引火性が高いため、暖房の近くで使用・保管することはもちろん、リキッドを浸みこませて使用したペーパー類の扱いにも注意が必要です。
リキッドワックスの特徴
メリット:時短作業で高い効果。持続性はペーストとホットワクシングの中間。
デメリット:取り扱いの注意事項が多い。火気厳禁。石油臭が強いので換気必須。現状は価格=効果。揮発性があるので蓋をしっかり閉めること。携帯する場合は液漏れに注意。飛行機内持ち込み不可。
セルフワクシングに関する素朴な疑問
Q.いろいろなワックスを混ぜたり重ねたりしてもいい?
固形同士であればホットワクシングでも生塗でも、混ぜて使用してOKです。
MOJANEでも、混合することで硬いワックスを伸ばしやすくしたり、広い温度帯をカバーするなどしています。
ホットワクシングの後にペーストを重ね使いするのも◎です。ホットワクシングの効果が長続きすることはもちろん、ペーストで温度帯を変えたりするなど、ワックスのリカバリー範囲が広がります。
リキッドタイプについては現在実験中です。
Q.滑走ワックスのみではダメ?
せっかくワックスを購入して使うのですから、その効果を得ようとするならベースワクシングは必須です。
いくら高価なトップワックスを使っても、ベースワックスを施していなければ効果が引き出されません。また、ベースワックスと併用することで滑走ワックスの持ちも俄然良くなります。
十分にベース作りができている場合は、滑走ワックスのみでもある程度の期間走らせることは可能です。ただ、滑走日数が多い方は定期的にベースワックスから行うワクシングをおすすめします。
Q.小まめにワックスを塗っているのにあまり効果がないのはなぜ?
汚れや残留ワックスがついたままの滑走面にワックスをどんどん塗り重ねていくと、塗りムラができてしまい失速の原因になることがあります。
現場での応急処置以外では、スクレーピングやブラッシングで滑走面の汚れを落としてから、ベースワックス、滑走ワックスの順に施工しましょう。正しい手順で使用していれば、多少温度帯が違っても(極寒環境でなければ)そこそこ走るはずです。
特に春の雪は汚れ(花粉、塵、ワックス、土、リフトから滴るオイルなど)を多く含んでいるため、必ずクリーニングを行った上でワクシングしてください。
Q.ニューボードを簡易ワックスのみで乗り続けることはできる?
購入したままの状態で滑走OKとしているブランドもありますが、MOJANEでは全てのニューボードはクリーニング + ホットワクシングを行うべきと考えています。
封を開けた状態の滑走面は、毛羽立ちがあったり、ワックスが酸化していたり、状態は様々です。
滑走面の細かなケバをホットワクシングで整えることで、走りが滑らかになり、その後に使うワックスの効果の持続性も上がります。
最初の段階でベース作りをしっかり行ってさえいれば、シーズン中はブラッシングと簡易ワックス(ベース+滑走)で過ごすことは可能です。
MOAJNEでお買い上げいただいたニューボードは、プレチューン(ニューボードに施す最初のチューンナップ)でベースワックス+滑走ワックスを施工してからお渡ししています。
Q.現場で使うなら、どのタイプのワックスがいい?
「今、まさに走らない!」という場面に対応するなら、ウェアのポケットに入れて携帯できる固形ワックスの生塗が最強です。さっと滑走面に擦り付けたら、フィニッシュクロスで刷り込むように塗り広げます。フィニッシュクロスとセットで携帯しましょう。
車に戻って作業ができるならペーストも〇。リキッドは臭いが強く、液漏れ・液だれしやすいので扱いにくいかもしれません。塗り広げるために使ったペーパーのゴミの扱いも気を配る必要があるので、現場での使用には注意が必要です。
どのタイプのワックスであっても、現場で行うワクシングは、環境に合わせたマナーのある作業を心がけましょう。
おすすめの携帯用固形ワックスの一例

ハイシーズン|降雪量が多い時期は雪面の汚れが少ないこともあり、あまりワックスの成分に神経質にならずともそれなりに効果が感じられます。その中でも本格的にスピードを得たい方には、ドミネーターハイパーズームをご提案しています。

スプリングシーズン|湿雪や汚れた雪による失速をどう攻略するかがテーマです。春雪特有の急な失速は、転倒や怪我の要因です。ドミネーターバターは高額ですが、この金額でも納得してしまうほど効果は抜群。4月から15回程度行く方なら確実に2シーズン使える量なので決して損はありません。
自宅でワクシングを行う方へ
ご自宅でのワクシングは、壁や床を広めに養生し、必ず換気しながら行ってください。 特に、小さなお子様がいるご家庭やペットを飼っている方は、ワックスの削りカス・施工で出たゴミの処理・ワックスの保管にも十分ご注意ください。
モロのつぶやき
スノーボードギアほどの目まぐるしさはでありませんが、スノーワックスの世界にも常に動きがあります。
ここ数年の大きな流れとしては、植物性や自然分解成分を重視するブランドが増えていること。FIS公認大会でC8/PFOAを含むフッ素系ワックスの使用が禁止されたことが、その変化を後押ししています。
そんな中、2024年に登場したDOMINATORリキッドワックスは、強烈なインパクトがありました(ブログUP予定)。
ワクシングは地味で面倒な作業だと思われがちですが、こうした進化系アイテムも次々生まれています。
僕たちはつい1つのワックスに多くを求めがちですが、常に滑らかな走りを目指すなら、目的に応じていくつかの手段を使いこなすことが近道かもしれません。
もちろん、ショップで行うチューンナップもご活用ください。
※コメント欄や問い合わせフォームからの個別のアドバイスや商品のご提案は致しかねます。ご理解のほどお願いいたします。