祝5周年。自転車好きが集まる旭川のコーヒースタンド
旭川市買物公園通7丁目。常磐公園からもほど近いCOFFEE STAND CONTAINER(コーヒースタンド コンテナ)は、アートと自転車を愛好する戸叶君が営むカフェです。
彼と僕は、お互いの家が窓から見える距離で育った幼馴染み。その縁もあって、MOJANEが年に数回行っている”出張自転車整備”の開催場所として協力してもらっています。
道内各地で遊ぶMOJANEユーザーには、中継地点の休憩場所として、旭川近郊のローカルグルメ情報の収集ポイントとしても、是非知ってもらいたいお店です。
2017年7月で5周年を迎えたCONTAINERの戸叶君に、オープンまでのストーリーや、今後の展望をインタビューしてきました。
INTERVIEW 戸叶 宏樹 HIROKI TOKANOU
旭川でカフェを始めたきっかけ
家族や人生を考えた結果、やりたいことをやろうと決めた。
moro : 東京から帰ってきてカフェを始めるって聞いたときは驚いたよ。カフェを始めようと思ったきっかけもそうだし、札幌出身の戸叶が、なぜ旭川という土地を選んだのかを聞かせてよ。
tokanou :旭川は大学時代を過ごした場所で土地勘もあったから、ここに住むことは”戻って来る”に近かった。人も地域性もどこかのんびりしていて、スローな感じが自分にも合っているしね。妻とは大学時代からの付き合いで、卒業後は一緒に東京や神奈川で6年間暮らしたんだ。その間に結婚と出産を経験して子育てが始まったんだけど、2011年3月に東日本大震災が起きたんだよ。あの震災をきっかけに、子育ての環境も考慮して妻の地元に帰ろう、という決断に至った。コーヒー屋をやりたいっていうのは東京にいた頃からずっと考えていたし、決めていたんだ。タイミングが合ったというか、”待っていた”という感じだったかな。
moro : それまでの仕事を辞めてカフェを始める事に対して、家族の反対はなかった?
tokanou : やってみないと気が済まないっていう僕の性格を一番わかってくれていたのが奥さんだったから、反対はなかった。逆に、失敗してもいいからやってみよう、という雰囲気だったよ。当然たくさん心配は懸けたけど、何とか今までやってこれたよね。
moro : 新たな土地で、新たな業種に挑戦した訳だけれど、開店までの道のりで苦労したことはある?
tokanou : やっぱり手作業で施工した改装かな。ここは元々、ラーメン屋だった物件で、とても汚かったんだ。天井を剥がして、断熱材を張って、仲間に手伝ってもらいながら作り上げたんだよね。実は、最初は前の職場で出会った仲間と一緒に始めたんだ。彼はカフェで働いた経験があったから、頼っていた部分も多かったんだけど、色々あったよね…オーナーと従業員という関係が上手くいかなかった。当初のイメージとは違うものになってしまって、彼は新しい仕事を見つけて離れてしまったけれど、1人では始められなかったかもしれないから、今も感謝しているよ。
沢山のカフェを巡って見えてきた理想のカフェ
moro : 戸叶家は兄弟全員が美術系で、幼い頃からクリエイティブな環境だったよね。戸叶君もその血を受け継いでいて、物づくりの才能があった。手作りの店内を見て、こういったお店を作ることは自然なことだったのかなと、僕は納得しているよ。
tokanou : そう…かもしれないねw 什器、カウンター、看板、店内の殆どがDIYで作ったものだよ。デザイン学科だったこともあって、絵を描くのも好きだし、物や空間を作ることが好きだった。そういうことを仕事にしたい気持ちはあっても、なかなか難しいじゃない?あれこれ迷いながら、東京でカフェというものに出会って、色んなお店を見ているうちにアイディアが生まれて「これしかない」っていう気持ちになっていったんだ。
moro : 自分のお店を作る上で、影響を受けたお店はあった?
tokanou : 特に影響を受けたのは、代々木八幡のLittle Nap COFFEE STAND(リトルナップコーヒースタンド)。お店自体は小さいんだけど店構えがお洒落で、対応が素晴らしかった。そつなくクールな東京の他のお店とは、全然違ったんだ。すごく優しい雰囲気で、味も良いしビジュアルも良いってことで。CONTAINERとはだいぶ雰囲気は違うけど、とてもインスピレーションを受けたよ。東京では是非行ってもらいたい。
日々の店づくりと譲れないコダワリ
DIYで創り上げた空間で味わう自慢のアイリッシュ・ラテ。
moro : 天気の良い日に、外のベンチで飲む甘いアイスカフェラテがMOJANEのお気に入りだけど、CONTAINERの看板メニューや、戸叶君が自信を持ってるメニューはある?
tokanou : やはりラテかな。中でも特にアイリッシュラテ。横浜にCoffee and baby(水谷珈琲)っていうお店があって、赤ちゃん連れでもだいじょうぶですよ、みたいなところでね。そのお店は同じマシンを使ってるんだけど、アイリッシュラテが本当に美味しくて。自分もそういう印象的なラテを作りたい、と思ったんだ。
moro : 沢山の店をリサーチしてきたと思うけど、今も他のカフェや飲食店を偵察しに行ったりするの?
tokanou : 参考にするための食べ歩きはしなくなったかな。美味しいものは美味しい。それは間違いないんだけど。どんな人が、どんな思いで、どんなお店をやっているか。今はそういうところに興味がある。そこが面白い所だよね。
誰もが安心できる定番をコツコツと欠かさずに作ること。
moro : 2013年、MOJANEのお客さんを集めて札幌からピストでCONTAINERに来たでしょ。あれが初めてのCONTAINERだった。クッキーとマフィンを食べたんだけど、疲れた体にコーヒーと甘い焼き菓子が凄く美味しかったのを覚えているよ。お菓子づくりはいつから始めたの?
tokanou : そうそう、俺はあの時初めて間近でピストを見たんだよね。「カッコ良いな。札幌から自転車で来るなんて、やばい人たち居るなぁw」って思ったよ。料理はもともと好きだったし、食べ歩きも好きだし、食事を出すカフェをイメージしていた時期もあったから、お菓子作りも結構練習していたんだ。今は、お店で焼き上げる数種類のスイーツの他、毎週金曜日にjojoniというお店のパンを届けてもらっているよ。新メニューをどんどん出すっていう面白さよりも、ベーシックな物を欠かさずに揃えるお店を目指してる。常連さんにも、初めての人にもホッとしてもらいたいからね。
moro : その点はMOJANEとは真逆かもしれないね。常に新しいモノを探したり、刺激的な体験を求めたり、面白い提案をしようと心がけているから。業種の違いもあるけど、戸叶ならではの繊細なお店作りだね。決して席数は多くないのに、毎日の常連さんから旅行者まで、色んなタイプのお客さんが同時に居られる空間。知らない土地なのに妙にリラックスできるよね。このスタイルはどうやって作ってきたのかな。
tokanou : 店は自分そのものだから、性格がとても出るよね。俺が地元っ子じゃないからか、お客さんには転勤してきたという人や移住者なんかも多いんだ。新しい土地で居場所を見つけるのは時間がかかるものだけれど、そういう人にホームを感じてもらえると嬉しいね。意外かもしれないけど、実はモロの接客にも影響を受けたんだよ。北海道に戻ってきて、迷ってることが沢山あった時期に、モロがどんな感じでお店をやっているのか興味があってMOJANEに行ったんだ。そしたら、普段と同じ感じで、お客さんとめちゃくちゃフランクに話していて。次から次へと人が入ってきても、常連さんもそうじゃない人にも全く隔たりの無い接客をしていた。「モロはこんな接客をするんだ」って、衝撃を受けたし新鮮だった。自分もこんな接客をしたいって、かなり参考にさせてもらったよ。
moro : 狸小路1丁目スタイルですね(照)。実際、仲間とお客さんの線引きが無いのが昔からのMOJANEなんだ。自分もそういう接客を先輩方からしてもらったし、受け継いだとも思ってる。東京は接客も洗練された店が多いから、珍しいと感じたのかもしれないね。
tokanou : そうかもしれないねw CONTAINERの場合は、会話を楽しみたいお客さんと、静かに過ごしたいお客さんがいるから、そこは気を配っている。どんな人にも気軽に来て欲しいと思うから、自分の主義やこだわりを前面に出すのではなくて、ライトで居心地の良い空間でコーヒーを楽しめるように努力しているつもりだよ。
自転車愛好家が集う場所
moro : CONTAINERには、自転車をモチーフにしたオリジナル商品なんかもあるけれど、もともと自転車に興味はあったの?
tokanou :自転車は、一時期凄くハマっちゃったんだよね。今乗っているビアンキのミニベロエイトは、2010年に東京で買ったもの。白のミニベロが欲しいと思ったところから始まって、凝り性だからトコトン調べたよ。最初の自転車は中学生の時に乗ってた青い海外ブランドのマウンテンバイクだったかな?兄貴が自転車に詳しかったから、家には色々あったよ。マリーンっていうロードとか、シティサイクルだけど細いフレームのドロップハンドルとか。当時は、兄貴のマイナーチェンジ版を俺が乗っていたんだ。
moro : あぁ、思い出した。昔、戸叶家で初めてドロップハンドル見たんだよ!なんだこれ、みたいな。当時はものすごくそのフレームが細く見えて「これに乗るの?」って感じだった。兄貴に乗せてもらったよな。CONTAINERには、やはり自転車が好きな人が集まってくる?
tokanou : そうだね、自分はそこまで詳しいわけではないけれど、自転車好きな人はいっぱいいるし、詳しい人も沢山いるし。お客さんと共通の話題は、会話を楽しめるよね。自転車の情報を教えてくれる人も多いから、楽しいよ。
MOJANEとCONTAINERがタッグを組んむ新たな取り組み
moro : 僕たちもまた、自転車というキーワードで一緒に仕事をすることが出来たよね。昨年(2016年)からは、戸叶君の協力でCONTAINERを会場にした自転車出張整備を行うようになり、今年5月には自転車の展示会も開催したり。MOJANEとしては毎回、様々な試みと課題を抱えていますが、CONTAINERに集まる自転車好きのお客さんと、コーヒーを味わいながらのコミュニケーションを楽しんでいます。今後のMOJANEに期待していることはありますか?
tokanou : 旭川は、ロードとかクロスバイク、ファットバイクに乗る人は多いんだけど、ピストとか、楽しむ為の道具としての自転車を扱うお店が少ないからね。修理や整備に困っている人もいたから、MOJANEみたいなサービスを求めていた。どうなるか楽しみではあったけれど、2人のお店が絡むことで、こんな雰囲気が出るんだなっていう新しい展開だったよ。自分も色んな自転車が集まるのを見るのは楽しいしね。
個人的にピストが好きだから、そういうのを乗る人が増えたら面白いと思うし、やっぱり実物が見たいよね。そういう意味では、展示会で自転車を見れるのはとてもいい機会だった。みんな喜んでいたよね。もっと見せて欲しいなw
moro : 旭川の街は坂が少なくて近隣には東川や富良野なんかもあるから、街乗りも遠乗りも、自転車環境が整っている印象があるんだけど、戸叶君はどんな風に自転車を楽しんでいるの?
tokanou : 自分の場合は、遠出をすることはあまりないんだけれど、近場でも良い場所がたくさんあるよ。例えば、朝は仕事前に買物公園を抜けて常磐公園を抜けて、河川敷を走るんだ。石狩川の川沿いを信号なしでずっとストレートに走れて、めっちゃ気持ちいいよ。街でも自然がいっぱいあるから、目的地を決めて乗りに行くっていうよりかは散歩の延長という感じかな。
若者が集まり始めた買物公園7丁目
moro : オープンから今年で5年。初めて来た日と比べて、買物公園、特に7-8丁目はとても変化したように感じるよ。前はもう少しシャッターを下ろしている店が多かったし、北欧テイストというのか、戸叶君と似たカラーのお洒落な雰囲気のお店が集まってきたね。年配の方から若者まで、意外と地元出身じゃない人も多くて。みんなが声を掛け合って街を作っているという感じがするよね。近くの本屋さん、ギャラリー、チーズ屋さんや一軒家のカフェなんかはCONTAINERとの雰囲気もピッタリだし。
tokanou : そうだね。古いお店もたくさんあるけど、近くに若い経営者が増えたと思う。このエリアが好きだっていう若者が増えてきたことは凄く嬉しいよね。「一緒に街を盛り上げましょう」みたいな動きはどうも苦手なんだけど、一軒一軒がしっかり真面目に取り組んでいれば、自然と街は活気づいていくのかなっていうのを体感しているよ。
1人でお店に立つという至福
moro : これは、是非聞いてみたかった質問なんだけど。戸叶君も僕も、1人でお店に立っているという共通点があるけれど、人手がない分大変なことも多いでしょ?1人でお店に立つことの意義とは?
tokanou : 1人はねぇ、もう大変なんだよね。外出できないし、休めないし、食べたいときに食べれないし。ただ、自分以外の人がいることの方が…もっと大変なんだよね、俺の場合はw。自分の店を自分のペースで取り組めることが幸せだなって思うし、それが楽しいよね。
moro : やっぱりwそういうもんだよね。全く同意見だよ。自分で自分の店を創り上げているっていう充実感は計り知れないものがあるよね。
5周年を振り返って。
そしてこれから目指すカタチ。
moro : これまでの5年と、次の5年・10年に向けての目標はある?
tokanou : 何にも分からないところからスタートして、まずは5年を目標にしてきたんだけど、あっという間に5年が経っちゃった。地元のコミュニティに馴染めない時期もあったよ。旭川は、新しい物が根付かない土地って言われているんだけれど、その中で少しづつ自分のお店を知ってもらって自分らしく出来ているなと思えるところまできた。それと、自分の中の世界だけじゃなくて、人の面白さにも気づいた。試行錯誤はあるけれど、ここから大きくバーンと変えることっていうのはあまり考えにないんだ。少しずつ手を入れて、少しずつ今よりも良くしていこうっていうのが自分のやり方かな。10年後には焙煎もやっていたいっていう計画はあるよ。
moro : 周りに左右されない自分のやり方が確立したという事かも知れないね。MOJANEも頑張らなきゃな。 夏の自転車や冬の雪山も含めて、この土地でのCONTAINERは、MOJANEにとって良い集合場所になると思うし、今後もいろんな活動を一緒にやっていきたいね。
COFFEE STAND CONTAINER
オーナー戸叶宏樹(Hiroki Tokanou)
1982年生まれ/札幌出身/東海大学旭川キャンパスで家具デザインを学び2005年卒業
2012年07月15日COFFEE STAND CONTAINERをオープン。
COFFEE STAND CONTAINER店舗情報
〒070-0037 北海道旭川市7条通8丁目38-19
駅前買物公園通りと常盤公園前7条緑道の交差点すぐそば
毎週火曜定休
月-金10:00-19:00
土日祝10:00-18:00
CONTAINER(コンテナ)という店名には、自分や好きなアーティストの作品を置くスペース、夢を詰め込む場所という意味が込められています。
美味しいコーヒーと焼き菓子、手作りの店内も見どころです。作家さんのクラフト作品やCONTAINERオリジナルグッズも販売しています。