カミンズ ブラザーズが手がけた
MARVIN製リゾートスティック
90年代のスノーボードシーンを過ごしてきたなら、この兄弟を知らない人はいないでしょう。
カルト的な人気を誇るLIB TECHに所属するマット・カミンズ(兄)と、実験的なギア開発で定評のあるGNUに所属するテンプル・カミンズ(弟)。 共に20年以上シグネチャーモデルをリリースし続け、多くのアイディアを形にしてきたクリエイティブなプロスノーボーダーです。
今回は、彼らが監修したボードの中でも、兄弟それぞれの個性が光るリゾートスティック「LIB TECH MC WAY FINDER 2」と「GNU BANKED COUNTRY」にスポットを当てます。
1本のボードでスノーリゾートの全てを
「リゾート・スティック」というジャンルが海外のスノーシーンに定着しつつあります。1本でフリーランの要素を網羅するトリップボード、という意味合いです。
大規模な海外のスノーリゾートに長期滞在する時も、荷物はボード1本で。様々な環境で遊べるよう考案され、ここ数年で急速に完成度を高めています。
スケールは違えど、北海道のスノーリゾートやスノーボード環境には、この「リゾートスティック」がハマる類似環境が多くあります。
ハイシーズンを1本で過ごそうという方や、長い滑走距離をTOP To BOTTOMで楽しむためのボードを探している方にお勧めしたいボードカテゴリです。
アイディアを作り上げるMERVINのクラフトマンシップ
カミンズブラザーズが所属するLIB TECHやGNUを製造しているのが、MERVING FACTORYです。1977年にスノーボーダーのMikeOlsonとPeteSaariによって設立されました。ワシントン州カールスボーグを拠点とし、環境への配慮とMADE IN USAを守り続ける数少ない工場です。
MERVIN製のスノーボードギアがコアなスノーボーダーから支持される理由は、グラフィックスだけではありません。スノーボードに対する愛情と職人気質が、乗り手の信頼を得ているのです。ボードの品質は常に高く維持管理され、良い意味でのアメリカっぽさやアングラ感が魅力になっています。
時に、公表されていた内容とスペックに誤差が生じたり、予告なくグラフィックが変更されたり…といった珍事もMARVINブランドの一部。 おおざっぱで気分屋なイメージと受け取るか、商品化のギリギリまで追及した結果と捉えるかは、あなた次第です。
LIB TECH MC WAY FINDER 2 155
マット・カミンズ(兄)が手掛けたLIBTECHのMC WAY FINDER 2は、このブランドの王道ともいえるバランスのリゾート・スティックです。 155cmというレングスに、26.3というミッドワイド、大きなノーズにムーンテールデザイン。見た目からは想像がつきませんが、ダブルキャンバー構造により、浮力は折り紙付きです。
C2 HYBRID 構造
MERVINGが作るC2(ダブルキャンバー)は、1つのロッカーに2つのキャンバーがある構造で、BURTONでいうFLYING V、NITROでいうガルウィングと同類です。
MC WAY FINDER 2ではC2 “HYBRID”という進化系が搭載され、ノーズ側のキャンバーアーチをややフラットに、後ろ足のキャンバーが強調されています。
グルームバーンでは後ろ足に体重を乗せて踏み込むことでより強いエッジングが得られ、パウダーではボードセンターのロッカーを意識して浮力を楽しむことができます。
元々ダブルキャンバーを得意とするリブテックは、スノーボードで初めてロッカーを取り入れたブランドでもあります。スキーブランドのK2がスキーで取り入れていた構造を応用し、SKATE BANANA(2006~)で再現しました。
マグナトラクション
ロッカー構造の弱点だったエッジグリップ力を解決したのが、2004シーズンにリリースされたマグナトラクションです。
例えば、強風で雪が飛ばされてしまったアイシーなエリアを、ツリーに入るまでしっかりとエッジングしたい…そんな場面でマグナトラクションが活躍します。風を避ける林や沢の雪と、風を受けてカチコチの雪面を同時に攻略できる画期的な構造です。実体験をそのままボード作りに反映していることが伺え、共感できますよね。
フレックス
ノーズ、テール、そしてセンターもフレックスは柔らかめです。
C2ダブルキャンバーと柔らかめのフレックスを組み合わせることで、スピードが出すぎず思い通りにコントロール出来ます。
急な地形の変化もトレースし、踏み込みたいところではしっかりと踏み込める。地形遊びやデブリでも遊びやすいです。また、フレックスはバイン次第で印象が大きく変えられるので、狙いがあればカスタマイズ出来ると思います。ただ、柔らかいとはいえ、ボード自体は太く、面積が大きいので軟弱ではありません。
グラフィックス:スティーブン・バリエール
クラシカルでありながら強烈なインパクトを放つグラフィックは、70~80’sハワイのサーフシーンを生き抜いたスティーブン・バリエール氏によるアート。
彼が描くサーファーは、ハワイアンレジェンド、バテンス・カルヒオカラニのライディングを彷彿させる様なワイルドなスタイルです。こんなサーフィンが出来る人がMC WAY FINDER 2に乗ると、どんなリアクションを見せるのでしょうか。テクニカルなバレルをライディカルに進んでいくイメージとMC WAY FINDER 2の乗り味が見事にリンクしていると思います。
試乗レビュー諸橋正太
僕は、この手のレングスのリゾート・スティックが大好物です。
1サイズオンリー(155)のモデルですが、身長180cmの僕でも十分過ぎる浮力を感じました。165cm〜185cm 60kg〜85kgの方であれば、概ね同じ感覚で乗れると思います。
オープンバーンでグイグイと引っ張っていくようなターンや、かっ飛ばすのには不向きですが、ノーズバターや当て込みといった場面でのコントロール性を重視してターンを楽しむタイプのリゾートスティックです。
北海道では、大きなゲレンデやタイトなツリーランがぴったりハマると思います。 レングス155cm、ウエスト26.3cm、サイドカーブが6.2。この数字からも分かるように、タイトな場所ほど楽しめるボードです。
試乗したのはマウントレースイです。リゾートとしては中規模ですが、様々な斜面とコンディションが楽しめるお気に入りのゲレンデです。 MC WAY FINDER 2は、ここぞと言う場所でクルッと回転してくれるので、バンクでの当て込みもスムーズ。タイトな沢が最高の遊び場になります。キロロの長嶺ゲートの様なツリーも相性がいいと思います。
また、良い意味でオーバースピードにならない設計なので、ツリーランをマイペースに楽しみたい方にお勧めです。 僕は、スピーディーでスリリングなツリーランよりも、当て込めるセクションを探しながら滑りたいタイプなので、速すぎないことがメリットに感じました。
GNU BANKED COUNTRY 159
テンプル・カミンズTEMPLE CUMMINS(弟)が提案するリゾート・スティックは、スピードに強いGNU BANKED COUNTRYです。/
MC WAY FINDER2との大きな違いは、縦に落とすスピーディーなモデルであること。スピード狂、当て込み狂は是非チェックしてください。
テンプル・カミンズと息子のキャノン・カミンズCANNON CUMMINSが、彼らのバックカントリー(庭)を攻める為に作ったという正真正銘のプロモデル。 名前からもそのイカツさが伺えますが、キャノンくんは「スケートボードの様に遊べる」と語っています。
C3 CAMBER
MERVINGが作るキャンバーには、センターに”マイルドロッカー”が仕込まれています。ターン中にボードのたわみをアシストしてくれる構造です。
このマイルドロッカーにより、スピードに乗せてターンを踏み込むほど、浮力が得られます。 浮力はフロートノーズとC3、そしてスピードによって生み出され、エッジコントロールはプログレッシブ・マグナトラクションに頼るという設計です。
プログレッシブ・マグナトラクション
マグナトラクションはMERVINGファクトリーのオリジナルエッジバイトシステムで、通常ボードの真ん中、スタンスの足下に仕込まれています。 そのマグナトラクションをテールギリギリまで引き延ばしたのが、プログレッシブ・マグナトラクションです。
セットバックすればするほど、テールが雪面に食い込み、力強いターンに繋がります。 アイシーな場面でも躊躇なく頼れるあたり、久々にプロモデルの底力を感じました。
159という長さがあっても取り回しが良く、思いっきり踏み込めて、スタンスロケーションで様々な乗り味に変化します。 テールのキックは強いので、引っかかる印象はありません。
また、BANKED COUNTRYのテールにはサーフボードのフィンを連想させるデザインが施されています。これは僕の予想ですが、テールにフィンの役割を落とし込んだのではないでしょうか。3Sを追求している彼らならではのアイディアです。
フレックス
ノーズ、センターまではミディアムフレックスですが、テールほんの少しだけ硬め。 このボードはディレクショナルなので、必然とフレックスもディレクショナルになります。
バリバリな硬さではありませんが、柔らかいボードに乗り慣れている方には硬く感じられるかもしれません。 ですが、滑り込む過程でフレックスは徐々に柔らかくなります。これはMERVIN製ボードの特徴でもあります。乗り手のバランスにフィットしていく、その工程を楽しみましょう。
グラフィックス:キャノン・カミンズ
BANKED COUNTRYのグラフィックスは、息子のキャノンくんによるものです。幼い頃からMERVINクルーに囲まれて育ったので、インスピレーションは彼の生い立ちそのものから来ているでしょう。
カタログに面白いインタビューがありました。「父テンプルから何を教わった?」という質問にキャノンくんの回答は「色々な事を教わりました。スケート、サーフィン、スノーボード、そして車の運転。」だそうです。
試乗レビュー諸橋正太
ボードスペックのバランスが良く、159の長さでも取り回しが抜群だったことが印象的でした。
サイドカーブは8.3m。この数字だけで見ると、それほど小回りが効くとは思えませんが、マイルドテイパード2mm、有効エッジは114mm という取り合わせにより、僕にはCUSTOMの様な取り回しの良さに感じられました。※BURTON CUSTOM 158は有効エッジ1215mm テイパー0、サイドカーブ7.9m。
また、推奨スタンスで乗るターン弧と、セットバックした時のターン弧でずいぶん乗り味が変わりました。推奨では小回りが効き、セットバックにすると大きなターンも楽しめる(小回りが”効かない”とはなりません)。乗り味としてはセットバックの方が僕の好みではありますが、場面に適したセッティングを探ったり、深堀したり、長く楽しめるポイントです。
もし、BURTON HOME TOWN HEROに”X”があるとすれば、このBANKED COUNTRYに近いイメージになるのではないかと思いました。
MERVIN製ボードの面白さは「人」にアリ
MERVIN製のボードは、その高いクオリティを見過ごしてしまうほどインパクトのあるルックスに注目が集まります。
LIBTECHやGNUに漂う濃厚なブランド感は、アーティストや所属ライダー、ボードにまつわるストーリーによっても作り出されているように思います。 例えば、今回ご紹介した2モデルを監修したカミンズ兄弟が、生粋のスノーボードファミリーであることは良く知られています。
カミンズブラザーズ
スノーボードショップを経営する父の元で多大な影響を受けたカミンズ兄弟。 兄のマットはワックスブランドのオーナーとなり、弟のテンプルはスノーボードの作り手に。 また、テンプルの妻は90年代に活躍したプロスノーボーダーバレット・クリスティー!現在は息子キャノンも加わってスノーボードを制作しています。もはや家系図は北米スノーボードの歴史そのものです。
また、スノーボードの核となったストリートと密接な関係性を維持していることも、長年のファンから信頼を得ている所以でしょう。
僕が感じている面白さは、MERVINボードの熱狂的なファンにもボード以上のストーリーがあること。 試乗で乗り味を確かめ、納得してボード選びが出来る時代だというのに、MERVINファンの大人たちは、グラフィックだけで選んでいたりします。更に、そのグラフィックスが予告なく変更された事例もあることは先にも書いた通りです。
「どんなボードでもかかってこい!」というキャリアとスキルを持ったスノーボーダーと、彼らを楽しませるホンモノのボードづくりを行うMARVEN。 MARVENユーザーの一人、Wさんは「ボードの中にガムとか入っていそうじゃない?」と笑います。僕は、こうしたファンとMARVINブランドの間に築かれた信頼関係とサービス精神に共感しています。