ブレイク・ポールによる新たな遊び方提案
スノーボードを続ける中で培ってきた感覚やスタイルを貫きたい。そう考える方は多いと思います。これもまた、スノーボードの追求の一つです。
脈々と受け継がれてきたスノーボードの王道、「ツインルックス」のイメージを崩さずに、浮力もフリーランも楽しめるオールマウンテン・フリースタイルボードHYPER KYARVE(ハイパーキャーブ)は、そんな大人たちに知って頂きたいボードです。
MOJANEユーザーに当てはめるなら、「40代、まだまだ飛ぶぜ枠」の皆さんにドンピシャ!
もちろん、北海道をフィールドにしている若者たちにも、クラシックで遊び心のあるフリースタイルを体感してもらえます。
このボードのキーパーソンは、オールマウンテン・フリースタイルの聖地、ジャクソンホールの新星BLAKE PAUL(ブレイク・ポール)くん。アメリカでは、「バックカントリー・プリンス」とも呼ばれる若手ライダーです。
ルーキーの愛称に「王子」と付けがちなのは日本だけではないようで…。
生まれ育ったジャクソンホールをHYPER KYARVEで滑り降りるBLAKE PAULくん。この感じ、ワクワクしませんか?
スノーボードトリックのほとんどをナチュラルライディングで習得したという彼。セクションに合わせた自然な動き、その一つ一つがカッコイイ…。
グヌーって?マービンって?
アメリカでいち早く自然エネルギーでの運営を開始したスノーボード工場の名門、MERVIN FACTORY(マービンファクトリー)。この工場で生み出されているのがGNU(グヌー)やLIB TECH(リブテック)といったスノーボードブランドです。
GNUの知名度は日本でこそ高くありませんが、MERVIN初のスノーボードブランドで、開発力も高く評価されています。最先端のテックを積極的に取り入れるGNU、成功したノウハウはLIB TECHへと落とし込まれます。両ブランドの共存関係は実験的かつ合理的です。
ハイテクなのにナチュラル
HYPER KYARVEはディレクショナルボードですが、飛んでも、ダックスタンスでもよく曲がります。程よいルーズ感と浮力を備えながら、アイシーな場面でもガンガン攻めれる、そんな超オールラウンドなボードです。
テック感というよりも、ナチュラルな浮力とシンプルなターンが味わい深く、妙に新鮮。昔のボードの乗り味を知るベテランスノーボーダーにもしっくりと馴染みます。
先取り感のあるオールマウンテン・フリースタイル
特に、大きな山を滑る人の大半は、パウダーもツリーランも、ジャンプも、1本のボードでこなしたいと考えているのではないでしょうか。
ただ、オールラウンド性の高いボードは、どのブランドからも出尽くした感が否めず、ここしばらくは、目新しいアウトラインに出会えませんでした。
そんな中でHYPER KYARVEのルックスは、「オールラウンド系はこういう形」という固定観念を崩すのに十分なインパクトがあります。僕の中では、スノーボードアーカイブに残るデザインになると期待しています。
小技が効いたテールデザイン
オールラウンドボードに多く見られる形状といえば、ラウンドノーズ/テールやピンノーズ/テールです。これらのオールラウンド性の高さは誰もが知るところ。その一方、パウダーを軸にしたフリースタイルボードの新しいデザインとして、テールの形に特徴があるモデルを時折見かけます。
真っ先に思いつくのは、BURTONのBOTTOM FEEDERです。サーフボードでは月型に削られたテールをムーンテールと呼びますが、それと似たテールデザインです。
他には、BURTON SKIP JACK , SENSEI, K2 Niseko Plesureなどに見られるジェット・テールデザインにも、飛んだりバンクを当て込んだり出来る、フリースタイル要素が組み込まれています。
これらモデルのテールは、フリースタイル性を強調する為だけのものではなく、パウダーでのスプレーの飛び方や、蹴り出しのストレスをどう解放するか、そして何よりデザイン性に焦点を当てたものだと思われます。
HYPER KYARVEのテールも同じ方向性のディレクショナルボードです。
メインスタンス6 : スイッチスタンス4 というバランスで、高いオールラウンド性(ジャンプを含め)を備えているのに、テールがアレンジされているのが、このボードのお洒落ポイントです。
見事なエッジの食いつき!
ダブルキャンバー×マグナトラクション
ベンドはダブルキャンバー構造(C2 MANGA TRACTION)です。
ダブルキャンバーは、BURTONなら「FLYING V」、多くのブランドでは「ハイブリット」と呼ばれる形状です。今やどのブランドにも取り入れられていますが、原型となっているロッカー形状の元祖はMERVIN FACTORYにある、という事も今一度押さえておきましょう。
BURTONが作るFVの代表各CUSTOM X FVと比較すると、HYPER KYARVEのダブルキャンバー感は薄口です。キャンバーボードとは明らかに違いますが、違和感の無い自然な乗り味だと思います。ただ、ポップ感に関しては、普通にオーリーするよりも、ジャンピング・ターンを仕掛けると、面白い程よく跳ねました。
HYPER KYARVEでは、ダブルキャンバーの回転力に加え、波型のサイドカーブ+エッジ=マグナトラクションがボードのグリップを高めています。
MERVINでは、ダブルキャンバーのパターンをいくつも開発しており、ボードコンセプトによってロッカーの強/弱、マグナの強/弱を使い分けています。
HYPER KYARVEのロッカーは強めですが、キャンバーアーチは浅め、マグナトラクションは深めです。
その効果は、カービングが上手くなったと勘違いしてしまうほど。風で叩かれた尾根や、ナイターでも安心して攻められます。特に、アイスバーンでのエッジバイトは素晴らしい!
これはCUSTOM XFVなどと比較しても、他ブランドが追従出来ないマービン・ファクトリーの強みです。ジャクソンホールをHYPER KYARVE1本で滑るライダーたちのニーズを形にしたものだと予測します。
HYPER KYARVEが選択肢に入るなら、積極的にアイスバーンへ向かう方は少ないと思いますが、例えばニセコの様な標高差の激しい山では、山頂付近はパウダーでも麓に近づくとガリガリ…そんな場所で心強い機能です。アイスバーンへの苦手意識は確実に変化します。
「MERVINが目指すカーブ」の予感
HYPER KYRAVEでのターンは、ボードの後部を使ってテールで粘るというよりは、ボードのど真ん中にあるマグナトラクション部分を使います。スタンスの間でターンを仕掛けていくイメージで、足首を傾けるだけでターンが成立するのです。
ふと、MERVINライダーの面々を思い浮かべてみると、ダッグスタンス率が高く、骨盤を前に向けるようなライディングスタンスは居ません。
なるほど、これこそHYPER KYRAVE最大のテーマなのでしょう。キャーブ(カーブ)にフォーカスし、ダブルキャンバーはフリースタイル要素を求めたブレイクポールの意見により、後からセッティングされたのではないだろうか?と推測します。
フリースタイルにしかできないキャーブ(カーブ)。僕たち一般のスノーボーダーが普段と変わらないスタンスでターンが出来るのは、HYPER KYRAVEの特性かもしれません。
因みに、21-22シーズンはHYPER KYRAVEからHYPERというモデル名に変わります。最も重要かと思われたKYRAVEが名前から外れる…?今後も調査を続けます。
HYPER KYARVE ユーザーズレビュー
2018年は、僕の中のフリースタイルボード観が大きく変わったシーズンでした。
きっかけとなったのは、ノルウェーのスノーボードブランドFjell SnowboardsのMt1542です。
アウトラインはいかにもパウダーボードですが、実際に乗ってみると回転性があり、飛べて、スイッチランディングも出来る。メインスタンスでの性能を重視しつつ、サラッとスイッチを取り入れられる、アダルトなオールマウンテン・フリースタイルボードでした。
そんなMt1542とよく似たアウトラインが、17-18シーズン年に発表された、GNUのHYPER KYARVEです。
HYPER KYARVEはシチュエーションを問わないオールラウンド性が魅力です。BURTONのオールマイティーな1本がHOME TOWN HEROだとしたら、GNUの1本はこのHYPER KYARVEでしょう。
フレックスは硬くもなく、柔らかくもない、ミディアムな乗り心地ですが、対スピード、パウダーにも十分な強さがあるので、かっ飛ばしても大丈夫です。
エッジホールドが強いので、ターンの質が変わったように感じられました。
僕の場合、馴れないボードや初めてのコースなど、不安や恐怖心があるとき、無意識に後ろ側の手がキュイっと反り上がってしまう癖があるですが、このボードでは初回からリラックスして乗れました。
セットアップは好みが分かれるところですが、僕はボードのフレックスを活かせるバインが好きなので、UNION FALCORを選びました。
STAGE6のベースプレートが、ミニディスクにも関わらず程度のよい反応があり、絶妙なフレックスをキープ出来て好相性でした。FALCOR以外なら、用途が絞られ過ぎないニュートラルなバインがフィットすると思います。
そして、今回撮影に協力してくれた雉子谷さんにも感想を聞きました。
スノーボード歴25年以上、外国人が来る以前のニセコで山籠もり経験もある、筋金入りのダッグスタンス・スノーボーダーです。
GNUから登場した最新フリースタイルモデルに興味を持っていた雉子谷さん、選んだのは157でした。
僕としても、ゴリゴリのフリースタイルボードを乗り継いできた経験豊富な方に是非乗ってもらいたいとイメージしていたので、嬉しいです。
雉子谷さん-HYPER KYARVE 157-
ブレイクポールがカッコイイから、一目惚れだったんだよね。最初はダブルキャンバーに少し違和感はあったけれど、深呼吸をしてリラックスすると、思い通りに操れました。
馴れてくると、とにかく万能なボード!美唄国設では、ピステンバーンの高速カービングもゆるーく流せる安定感が最高でした。抜重の時にターンが気持ち良い板です。
うっすらパウダーでも攻められるし楽しいです。かもい岳ではボコボコでもコントロールしやすかったです。
また、ホームのテイネやルスツでも、最良のコンディションでストレス無し。パウダーも地形も遊び尽くせました。
雉子谷さんと滑って感じたのは、1本のボードで何でもこなしてきた世代の方は、板に合わせて乗るテクニックが高い!ということ。楽しみ方を熟知したライディングに刺激を受けました。遊べる地形を探し、スキあらばスラッシュ!さすがの身のこなしでした。
若い世代にも、こういったクラッシックスタイルのスノーボードに乗る格好良さが伝わりますように。