YES NOW BOARD.の新技術
POWDER HULL(パウダー・ハル)とは?
2016-2017にYES NOW BOARDが発表した次世代スノーボード20/20(トゥエンティー・トゥエンティー)をはじめ、ショートレングス・フリースタイルパウダーボードの代表であるTHE420 POWDER HULL(フォー・トゥー・オー パウダーハル)に搭載されているのがHULL(ハル)と呼ばれるデザインです。
コンケーブ(凹み)デザインの一種であるこの形状が、スノーボードにどのような効果をもたらすのでしょうか?
POWDER HULLの起源は船舶デザイン!?
HULLとは、船体や艇体を差す単語で、サーフボードの形状としても知られています。その歴史は深く、1960年代カリフォルニア、マリブのサーフシーンにまで遡るそうです。僕は、YESのスノーボードにHULLが搭載された所以は、サーフボードデザインからの影響だと確信しています。そこでMOJANEが信頼を寄せている3Dimension Surfboardsのシェイパー”EISHIN”こと佐藤 栄進さんに、サーフボードにおけるHULLの歴史や機能についてお話を頂きました。
「コンケーブは、ボトム後方に水流を作り出してスピードを生み出す仕組み」
EISHIN:「サーフボードでの”ディスプレイスメント・ハルデザイン”は、ディスプレイスメント=置き換えるという意味の通り、フラットなパネルデザインの組み合わせや、丸みを持たせたボトムデザインによって、海水を押しながら張り付くように水流をコントロールし、薄いフォイルのシェイプや同様の性格を持つレール、そしてフレックスするフィンの反作用キャラクターを利用して、独特の滑らかなターン性能を発揮するというもの。ディスプレイスメント・ハルの発祥は、船舶デザインとして海軍が開発したもの。水力学者でもあったボブ・シモンズによるシモンズデザインが、初めてサーフボードに取り入れたとされる。船舶のように一定の排水量を持ったまま進み続ける船体デザインでは、前方を持ち上げて摩擦の抵抗なく進む船体を”セミ・ディスプレイスメント・ハル”、スピードボードのように海面を滑りながら走る船体を”ハイドロプレーン・ハル”などと呼ぶ。」
EISHIN(佐藤 栄進)プロフィール
若かりし頃よりサーフィンの聖地サンディエゴにてフィッシュの文化、歴史、ボードビルドを学ぶ。2007年JPSA/Tanysurf Noseride Masters優勝後、プロキャリアをリタイアして、自身のクラフトをスタートさせる。サンディエゴフィッシュデザインのオリジネーターに学び継ぐ、日本を代表するフィッシュシェイパーである-3Dimension surfboardsより抜粋-
サーフボードでは、その凹みに水流を貯め込み、ボードを踏むことでスピードコントールをするという仕組みだそうですが、スノーボードの場合は水流の代わりに”空気”を取り込んでスピードを出します。
コンベックスソール(ソールが船底の様に丸まっている凸型デザイン)とは真逆に、凹みが特徴のコンケーブは、口を大きき開けたようなデザインで浮力とスピードが生まれます。
斜面にノーズを落とすと、一気に空気を取り込み、同時にしっかりと雪をキャッチします。誰も踏み入れていないノートラックでは筒状の部分に雪がしっかりと入り込み、安定したターンが実現します。つまり、パウダー上でカービングを意識できる、ということです。POWDER HULLは、サーフィンの歴史に脈付いた機能的シェイプだと言えます。
YES NOW BOARD.THE420 POWDER HULL
非圧雪では抜群の浮力とスピードが体感できました。HULLの部分からエネルギーが放出するようなイメージで、ボードの短さを全く感じません。
解放されたゲレンデを縦横無尽に駆け巡るなら、これ以上の長さは必要ないでしょう。また、圧雪での乗り心地も心配ご無用。圧雪部分でノーズをプレスしても、このコンケーブは自然とフレックスしてくれる印象です。
僕がこのボードに乗って特に印象に残っているのは、北海道大雪山系旭岳に行った日のこと。天候は晴天、気温はマイナス17℃以下、前日には風が吹き、山頂はギタギタなコンディションでした。当日の旭岳はティンバー・ラインより下は風の影響もなく、コースの脇にはたくさんの雪が残っているというシチュエーション。外人たちはコース脇には目もくれず上へ上へ、奥へ奥へと登っていましたが、このTHE420 POWDER HULLは、そんな脇に残るパウダーを攻めるには持ってこいのアイテム。起伏が激しくストップしてしまいそうな場所でも、スピードを落とさずに次のセクションに繋げることができます。
通常のボードだと長すぎて邪魔に感じる場所もスムーズにクリア。既存の420よりもウェストはタイトで、レングスを少し縦に伸ばしているので、カービング性能が確実にアップしました。
ウェストがあるボードの特徴として、攻め込むには体力が必要です。コースが長く、遊ぶ場所が無限にあるルスツではかなり疲れましたが、旭岳のように遊ぶ場所を絞れば、ビッグマウンテンでも十分に対応すると感じました。スピードが落ちないので冒険心も自然と湧きます。スタックするストレスから解放されて、普段ならためらう場所でも思い切りドロップインできます。
また、ファミリースタイルでゆっくり楽しく滑りたいお父さんにもお勧めです。脛くらいのパウダーでもたっぷりと浮遊感が味わえるからです。スピードを出さずにまったり滑るのも楽しいので、家族を置き去りにすることなく滑ることが出来ます。
トゥルーツイン形状にHULLを搭載した20/20も抜群の高揚感でした。パンピングしているだけで心が踊るボードです。斜度の少ない山の膝上程度の降雪でテストし、操作性の進化を感じることが出来ました。
ニセコ・モイワでのテストボードはなんと146cm。ですが、驚くほどの浮力でした。モイワは起伏も激しく、特徴のある地形を楽しめる山。180°/ワン・エイティーを繰り返したり、軽いオーリーだけでも、十分に楽しめました。
182cm/74kgの僕は、154サイズに乗ってみたいと思っています。スイッチが上達したらこのボードを自在に操りたいです。20/20一本で全ての山、全てのコンディンション、という訳にはいきませんが、ワイドスタンスでダックポジション、体重もパワーもあるライダーはこのボードを十分に乗りこなす事が出来ると感じます。ふかふかの雪でポンポンとジャンプを楽しみたい方は要チェックです。
POWDER HULLユーザーからのレビュー
寺岡さん「サイドカントリーでラインだらけ。でもこの板なら他の人よりも一つ奥のラインを狙っても帰って来れます。バフバフの大きなバンクでは誰よりも上まで駆け上がれます。だってマジックカーペット! POWDER HULLの大きく開いたお口でガバーっ!!といただいちゃいましょう!」
竹澤さん「僕はBURTON LANDLOARD159と併用していますが、ランド・ロードに足りなかったのがパウダーでの小回り性能。THE420POWDER HULLはバッチリです。HULLはバネの様に飛び跳ねて、浮力が半端ないです。このボードに乗り換えた昨シーズンのキロロでは、普段ならスタックするところでも一度も埋まりませんでした!」
何年もスノーボードから離れていた新山さん。2016-2017シーズン復帰1本目のボードが20/20でした。新山さんは体格が大きいので、パワフルに乗りこなしてくれると思いお勧めしました。また、ここ数年のスノーボードの進化を最も体感出来るボードだと感じていたので、ブランクを吹き飛ばすだけのインパクトとスノーボードの魅力を体感してもらえる自信がありました。KIRORO、旭岳、南富良野、トマムを強行スケジュールで巡った2017MOJANE強化合宿では、全くブランクを感じさせない大きなスプレーを見せてくれました。
YESが牽引するショートレングス・パフォーマンスボード
ショートレングス・パフォーマンスボードの登場は、僕が知る限り2004年。元プロスノーボーダー市村信吾さんがニセコで掲げたブランド”PEACE SNOWBOARD”が挙げられます。150cm 以下でウェストが25cm以上という、当時では考えられないシェイプでした。その後、BURTONから”NUG(ナグ)”と呼ばれる同様のコンセプト・ボードがリリースされましたが、その生産数は縮小しています。(将来が楽しみなラインナップでしたが…)現在はYES NOW BOARD “THE 420″がその歴史を引継ぎ、”ショートレングス・パフォーマンス・パウダーボード”という位置付けで、マーケットを刺激しています。
YES NOW BOARD
YES NOW BOARDは2009年、オバマ元米大統領の”YES WE CAN!”というメッセージと共に生まれました。スノーボードの楽しさをフォーカスしながら、彼らの得意とする攻撃的なライディングスタイルをミックスし、先進的なボードデザインをリリースし続けるブランドです。
スノーボードヒストリーが好きな人なら誰も知るBURTON SNOWBOARDSチーム”UNINC”。パークライディング全盛期に、いち早くバックカントリーへと向かい、危険度の高いラインや大ジャンプといった挑戦的なライディングを見せた彼らのスタイルは、SNSが未発達だった90時代でも計り知れない影響力を持っていました。YES NOW BOARDは、ほぼその”UNINC”メンバーで構成されています。