ヘルメット着用は今や常識?
通勤中の社会人・登下校中の学生、公園やその周辺で見かける子供たちも…。ここ数年、自転車や遊具に乗る人のヘルメット着用率が飛躍的に上がったと感じます。プロテクトアイテムがぐっと身近になった証です。この傾向は、スノーボードも例外ではありません。
雪上でのスリリングなスピード、ターンでの遠心力、深雪での浮遊感。ライディングの最中はつい忘れがちですが、スノーボードはその快感と同時に、常に危険と隣り合わせにあります。これは、全てのアクションスポーツが抱えている問題です。
ヘルメットをはじめとするプロテクトアイテムの着用は、自分の身を守る為であることはもちろん、家族や親しい人への配慮であり、同じフィールドで遊ぶ仲間同士のマナーでもあるように思います。
ノーヘル時代からの意識改革
今でこそ当たり前となったヘルメットですが、昭和生まれの僕が育った時代は、日常の遊びはもちろん、スノーボードやスケートボードでもヘルメットとは無縁でした。
世界のトップ選手が集結するビッグコンペですら着用義務が無く、「ヘルメットなんてかっこ悪い、俺は転ばない」と公言するスノーボーダーも多くいた程です。重たく、頭でっかちに見えるヘルメットが、単純に不格好だったのです。
ヘルメットの重要性に目が向けられた要因は、コンペティションでの過激化するトリックと、バックカントリーへの進出が挙げられます。
競技としてのスノーボードでは、年々ジャンプ台がサイズアップし、オーディエンスはクラッシュ寸前の大技に熱狂しました。
一方、手付かずの自然の中を滑走するバックカントリースノーボーディングには予期せぬ危険が常に潜み、どんなに技術と経験を持つスノーボーダーであったとしても、自然の猛威の犠牲となる事もあります。
一瞬のミスや運によって、多くのプロスノーボーダーが第一線を退いたことで、徐々にヘルメットの必要性が議論されるようになりました。
背筋が凍るクラッシュ
2009年12月31日、スノーボード史上最悪の事故が起こります。
将来を有望視され、多大な期待を背負っていたケビン・ピアーズ選手(Kevin Pearce 当時22歳)がハーフパーパイプの練習中、ダブル・コークスクリューに失敗。全身と頭部を強打し、ヘルメットをしていたにもかかわらず運動神経に障害が残る大怪我を負ってしまったのです。
Kevin Pearceのクラッシュ事故
「もしも、彼がノーヘルメットだったなら、即死だっただろう。」という見解を述べた関係者もいました。この事故は、彼のファンや世界中の観衆だけでなく、プロを目指すキッズスノーボーダーにとっても、あまりに衝撃的な出来事でした。
逆エッジ転倒は脳震盪の危険性!
激しい転倒は、プロフェッショナルスノーボードの現場に限った事ではありません。
スノーボードのステップアップの最中に、誰もが必ず経験する”逆エッジ”は、ターン中に谷側のエッジが雪面に引っかかり転倒を引き起こします。
初心者に最も多いヒールサイドの逆エッジは、ターンによる遠心力が加わりながら背中を谷側に向けて雪面に頭を打ち付ける事となり、特に注意が必要です。この時、ヘルメットを着用していれば安全だと言い切ることは出来ませんが、頭部への衝撃は確実に和らぎます。
頭を強く打ち付けると、漫画のワンシーンの様に星がちらつくだけでなく、めまいや吐き気を覚えたりします。一見、症状が軽い場合でも、頭蓋内出血を伴うことがあるので、自己判断に頼らず病院で頭部CTを受診しましょう。
パークライディングを楽しむ為に
トップライダーのライディングやビッグコンペを観戦すれば、当然アクションやエアを試したくなりますよね。
スノーボードショップとしても「是非挑戦しよう!」と言いたいところですが、どんな危険が潜んでいるのかも一度考えてもらいたいのです。
トリックの為の人工物が多く設置されたパークでは、当然危険度も高まります。現状、ゲレンデでのプロテクトアイテム着用は規則とされてはいませんが、最低限の装備をお勧めします。※各種大会では着用義務があります。
ハイスピードこそヘルメットの出番
ゲレンデでは、綺麗な高速カービングターンを繰り返すスノーボーダーに熱い視線が注がれますが、上級者でもターンのきっかけを間違えれば、逆エッジ転倒を招いてしまいます。
目標を掲げてレベルアップに集中するなら、ヘルメットの必要性にも目を向けてください。
また、僕ら一般のスノーボーダーは、大会に向けて練習中の選手が同じゲレンデで滑っている事を忘れてはいけません。背後からハイスピードで突っ込んでくる可能性はいつでもあります。
ヘルメットの種類と選び方
ヘルメットを敬遠してきた人にまず知ってもらいたいのが、最近のヘルメットは想像以上に軽く、フィット感抜群で、ビジュアルも良好だという事。シュリンクされたデザインが多く、たとえXXLサイズでも頭が大きく見えないように工夫されています。
また、ウェアラブルカメラの普及により、手ぶらで撮影する為のマウントをヘルメットに取り付ける人も増え、ガジェットとの組み合わせも楽しみの一つとなりました。
目的とフィット感
ヘルメットには大きく分けて3種類があります。自分のスタイルや目的に合うモデルを取り入れましょう。
- ボーダークロス競技に使われるようなフルフェイス型
- バックカントリーで使われるエンデューロ型
- パークやゲレンデで使われるフリースタイル型
ヘルメット選びで最も大切なのは、フィット感です。ゴーグルとの相性も重要ですが、必ずしもヘルメットとゴーグルが同じブランドである必要はありません。
特定のブランドのゴーグルが欲しいけれどヘルメットが合わない…という場合は、思い切って違うブランドのヘルメットを探してみましょう。身を守る為のアイテムですから、ぜひ試着をして、信頼できるヘルメットを選んでください。
初・中級者の主流はMIPS®
各ブランドから様々なタイプのヘルメットがリリースされていますが、一部のハイエンドモデルに搭載されているMIPS(ミップス)という機能があります。
MIPSとは、衝撃が加わる角度に注目して開発された機能で、ヘルメットとインナークッションの間に内蔵されています。
スノーボードでは、斜度のある雪面を滑走中、あるいはターンの途中で転倒することが多く、身体が倒れる衝撃の他に、スピードや回転の力が加わります。
MIPSは、転倒時に斜めから加わる衝撃のエネルギーを分散させて、頭部へのダメージを軽減させることに成功し、特許を取得しました。
例えば、滑走中にエッジが抜け、そのまま地面に頭を打ち付けるシチュエーションで威力を発揮します。
怪我をしない為に
残念なことに、MOJANEユーザーの中からも毎年数名が怪我を負い、病室で残りのシーズンを過ごしています。
僕自身も、若い頃は怪我が絶えず、入院や治療を繰り返し、手術やリハビリも経験しました。
ヘルメットをはじめとするプロテクトアイテムは各部の保護が目的です。ヘルメットを着用すればどんなハードなライディングでも安心、という訳では決してありませんが、装備によって回避できる危険は必ずあります。
お子様の装備として、家族の安心のため、まだまだ挑戦する為に、今一度安全装備について考えてみてはいかがでしょうか。