見逃せない中位モデルの完成度
来季の新作をチェックする中で驚いたこと。それは、3万5千~4万5千円台のビンディングのクオリティが跳ね上がった、という全体の傾向です。
これまでハイエンドモデルでしか叶わなかった機能や新素材が、概ね中位モデルまで降りてきたという背景もありますが、幅広いレベル層とシチュエーションをカバーしながら、価格のバランスも重視されるミドルクラス枠で各社が勝負をかけてきたことに、僕はワクワクしています!
この記事でご紹介するのは、MOJANEのビンディングラインナップの中核であるBURTON SNOWBOARDS, UNION BINDING, NOW BINDINGSのミドルクラス機です。多くの名作を生み出してきたビンディングメーカー3社、それぞれの開発力と個性が感じられるモデルが出揃いました。
CARTEL X|BURTONから待望のニューモデル
昨2019-2020シーズンを以て廃版となった人気モデル「GENESIS X」ですが、その特徴は、2型のニューモデルX EST(エックス イーエスティー)とCARTEL X(カーテル エックス)に振り分けられています。
X ESTが継承するのは、ボードのたわみを生かすパワーが得られるベースプレート。CARTEL Xは、エッジ使いに有効な甲やつま先といった足のフロント側のパーツの強さを引き継いでいます。
CARTEL Xは既存モデル”CARTEL”のアップグレード版という面でも、ベースプレートやハイバックが改良されています。CARTEL Xの各パーツを詳しく見ていきましょう。
ヒールハンモック
これまでGENESISやMALAVITAでも採用されてきたヒールハンモックですが、CARTEL Xでは仕様が違います。
ハンモックがネット状ではないのです。また、かかとを掴む部分に遊びがあり、カタカタと動きます。初見ではこの「カタカタ」が妙にチープに感じられ、ヒールハンモックとしての効果があるのか疑ってしまった、というのが正直なところです。
ところが実際に使ってみると、予想に反しトゥサイドへの傾きがとても楽。足首を掴まれる様な感覚があり、ボードを引き上げようとした時に良く持ち上がります。
普段ならもう少しハードなビンディングを好む僕ですが、小さな力でボードコントロールが可能になる点で魅力を感じました。
ハイバック
ハイバックはゼロフォワード(ダイアルフラッドで変更可)ですが、ハンモックのおかげでフォワードリーンをつけなくても反応が良く、ふくらはぎに余裕があります。
これは、SKIP JACKで壁打ちをしたい僕にとって魅力的はポイントです。フォワードリーンがあると膝下の動きが制限されるので、壁に当てて蹴り込む時には不向きだからです。
ベースプレート
CARTEL Xは、BURTONがプライドをかける「X」の系譜に乗るビンディングです。つまり、ベースプレートはそこそこ硬め、GENESIS-Xと同素材です。
この硬さに抵抗を持つ方もいるかもしれませんが、硬さが原因で満足のいくライディングができない、という事はありませんのでご安心を。ご購入前は念のために実物で確認して頂ければと思います。
アンクルストラップ
アンクルは、CARTELと同じハンモックストラップ2.0。BURTONでは最も硬いアンクルストラップですが、他社と比較すると特別硬くはありません。
僕個人の感覚では2019-2020 FALCORよりも柔らかいと思います。BURTONのESTやREFLEXでは、ビンディングとボードの間に必ず“遊び”があるため、必要以上に硬くしないという考え方だろうと推測します。
CHECKPOINT
BURTONから長期間ストラップビンディングのニューモデルが出なかった理由は、STEP ONに注力していたから、と言えるでしょう。STEP ONも3シーズンを終えてひと段落し「ここらでひとつストラップユーザーも黙らせておくか」と言わんばかりの完成度。CARTEL Xは、来季の注目株です。
ATLAS|フルモデルチェンジでバイン界を引率
2020-2021よりヨーロッパに自社ビルを構えたUNION BINDING。3Dプリンターによるサンプル作成が可能となり、開発力を上げいます。その第一弾がフルモデルチェンジを果たした新作ATLAS(アトラス)です。デザインはもちろん全パーツが一新され、文字通りのフルモデルチェンジです。
ディスク
ATLASの最重要ポイントは、ベースプレートにセットする「ディスク」にあります。 UNIONは、一般的なノーマルディスクと独自開発のミニディスク、2種類のディスクを自在に操るブランドですが、2020-2021版ATLASにはノーマルディスクの進化系が搭載されます。
ノーマルディスクは、スノーボードとビンディングを繋ぐマウントが共通化された頃からのベーシックなタイプで、より強いボードの反発を求める方や、カービング時のエッジのホールド性を高めたい方に選ばれています。FLUXがこのスタイルを貫く中、近年はREFLEX(BURTON)、ミニディスク(UNOIN)といった変化球ディスクが人気でした。
本来のノーマルディスクは、”硬さ”によってパワーを生み出すため、乗り手には脚力が求められます。トップライダーの間でノーマルディスクの人気が高いのは、彼らの筋力あってこそ。
新しいATLASは、これまでのノーマルディスクには無かった「しなり」のアレンジが加えられ、ノーマルディスクでありながら親しみやすいフィーリングとなっています。
ベースプレート
ベースプレートはレスポンスを重視したSTAGE 7。本体は複数のパーツが重なり合い、硬くてもボードに負担が掛からない構造です。また、UNIONの定番クッション素材ヴェポライトは、高圧縮版が搭載され更に負担を和らげます。
硬いベースプレートは、ジャンプの着地でかかるインパクトによって、ボードが折れてしまうリスクがありました。そんなユーザーの心配事に注目し、改善した点に好感が持てます。
トラビス・ライス(Travis Rice)が開発に加わったミニディスクのベースプレートSTAGE 6では、ミニディスクとしては高いレスポンス性が実現できましたが、最終的にパークライディングでハイレベルなパフォーマンスを繰り広げるライダーが満足するレベルには至らなかったと推測できます。それでもUNIONは、根気よくミニディスクの改良を根気よく続けていましたが、ここにきてミニディスクとSTAGE 6を一区切り。ノーマルディスクを改良することでミニディスクの良さを得るという次なる開発に舵を切ったと見受けられます。新たに登場するノーマルディスクのSTAGE 7は、限りなくミニディスクのSTAGE 6に近づき、UNIONが目指す理想のモデルに仕上がったのではないでしょうか。
キャンバーディスク
ATLASには、ノーマルディスクを更に強化するオプションとして、CAMBER DISCと呼ばれる金属プレートが付属されます。足裏の安定感を求める方には是非お試しいただきたいのですが、ボードとの相性がありそうです。例えば、SUPER DOAの様な軽くポップ感と瞬発力を併せ持ったボードや、CUSTOM-Xの様にボードが自ら走り出す様なパワーとスピードのあるボードとの相性が良いのではないかと思います。
ミニディスクのようなクッション性を備えたノーマルディスクに、パワーの伝達に優れた金属プレートでレスポンスをアップグレードできる。少しのエッセンスですが、嬉しいオプションです。また、このキャンバーディスクは、テクニカルのジャンルでも人気が出るのではないかと思います。
ATLASのレビュー
僕の使用感では、ハードにエッジを噛ませたり、ボードを縦にも弾くような、フリーランをガシガシ攻めていくスタイルの方にフィットすると思いました。僕はベースの柔らかさが欲しいので、UNIONのノーマルディスクを必要としていませんでしたが、フレックスがハードなLIB TECH / Tity Fishに乗せて試してみたいです。また、僕の場合は反発を使い、弾く様な動作が不得意なので、コントロール性能に優れたCUSTOM-Xでは、体がついてこない心配があります。
CHECKPOINT
近年のUNIONはミニディスクの開発に余念がなく、ULTRAやFALCORのクオリティを高めてきました。その一方で、ノーマルディスクに大きな変化は無く、フラッグシップモデルFORCE(ノーマルディスク搭載)に頼っている雰囲気が漂っていましたが、ここにきてノーマルディスクファンを喜ばせる開発を行った事、更にそれがUNION TEAMから信頼を集めるFORCEではなくATLASで見せてきたことに、UNIONの挑戦が感じられます。新しいATLASは、これからのUNIONを代表する重要なモデルになると予測しています。来季は、BURTON CARTEL Xとの激しい競争となりそうです。
DRIVE|スケートテックの本領発揮!
DRIVEの価格を見ると、他のブランドのハイエンドモデルと並ぶ価格帯ですが、NOWの中上位。ミドルクラスの内ということで、あえてここでご紹介します。
NOWにはDRIVEを上回るフルスペックのハイエンドモデルが2型もあります。O DRIVEは9万円、RECONは7万円。どちらもカーボンがふんだんに使われたモデルです。
価格順で3番手となるDRIVEは、北海道のゲレンデで要求される役割をしっかりと果たす、機能性の高いモデルです。
DRIVEの特徴は、長時間滑っても疲れにくく、板が曲がりやすく、軽いこと。
これらは北海道の大規模ゲレンデに有効なアドバンテージとなります。装着感としては、前述の2モデルよりもストラップやハイバックが柔らかく感じられ、ハードなイメージとは裏腹に、軽い力加減でボードの操作が行えます。まさにNOWの魅力が全て詰まったビンディングです。
ハンガー
NOWの独自構造「スケートテック」により、ハンガー(ベースプレート)は、エッジを立たせる垂直の動きには、素早く反応しますが、ボードのたわみ(フレックス)を使おうとした時に、荷重がハンガーの構造にブロックされている様な違和感を感じます。その為、ボードはミドルフレックス以上の硬さとの相性が良いと思います。但し、柔らかいボードに乗せると大きな問題がある、という事ではありません。
ハイバック
Driveの最大の特徴は、ふくらはぎを包み込む様に、あらゆる角度から力を受け止めるカフハイバックです。カフハイバックには高さがあります。特に、身長の低い方はハイバックの高さをより感じることになりますが、ハイバックのかかと部分がくり抜かれていることで、よくねじれ、ハイバックは全く邪魔になりません。
また、ワンタッチでフォワードリーンを入れられるのもポイントです。あらゆる状況にフィットさせられるので、攻めるぜモードやリラックスモードに直ぐに変えることが出来ます。デフォルトでは、ハイバックが垂直なのでリラックスモード。僕はタイトなコンディションで両足のフォワードリーンを入れていますが、疲れにくいと実感しています。
価格的に「オーバースペックだ」と思われるかもしれませんが、まさにミドル上位のクオリティ!体重がある方や、メタボを気にするわがままボディーのおじ様層にもプッシュします。
次のシーズンに向けたバイン選びのヒント
ここ数年のビンディング事情は、若者の心を掴んだUNION BINDINGの勢いに圧倒されていましたが、北海道で起きているもう一つのブームは、SALOMON(サロモン)のビンディングをヘビーローテーションするユーザーが目立ってきた事。
中でも、北海道在住のプロスノーボーダー中井孝治さん監修の”シャドウフィット”は、フリーライディングの聖地、北海道の地域性が反映されたモデルとして、ユーザーは大きなアドバンテージを感じているようです。
スノーボードギア全般に言えることですが、ハイスペックが必ずしも最適な道具選びではありません。ブーツとボードを繋ぐマウント「ビンディング」は、ハードギアの中でも奥深いく、セットアップによって大きな違いが生まれる楽しさがあります。
2020-2021シーズンを控えた今、ビンディングメーカーのPR合戦が始まろうとしています。流行に乗る?自分のポリシーを信じる?新しいビンディングの可能性を取り入れる?ブランドの顔ともいえるミドルクラスのビンディングを是非チェックしてみてください。