フリースタイルをゼロから見直すNOW BINDINGS
2000年以降、スノーボードは様々なジャンルへと枝分かれしましたが、その中でも特に大きな発展を見せたのは「フリースタイルスノーボーディング」です。
昨今では「飛ぶ」ことが大前提となっているフリースタイルですが、遡るとその本質はターンにあるのではないか、と思い至ります。
NOW BINDINGS(ナウ バインディング)は”RETHINK YOUR RIDE”というスローガンを掲げるビンディング専門ブランド。
MOJANEがお勧めする3モデル、IPO、PILOT、DRIVEは、ターンにまで立ち返って純粋なスノーボーディングに向き合おうとする人にぴったりです。
今回はそれらの特徴と注目すべきポイントをまとめます。
NOWの独自構造を知ろう
モデル紹介の前に、NOW BINDINGSの基本情報としてまず知っておきたいのは、一般的なビンディングとは違ったアプローチで作られた、オリジナリティのある構造です。NOWを率いるレジェンドスノーボーダーJF・ペルシャが開発するテクノロジーが各パーツに組み込まれています。
①SKATE TECH(スケートテック)
NOWの代名詞ともいえるスケートテックは、その名の通りスケートボードのトラックに着想を得た構造です。ベースプレート(NOWではハンガーと呼ぶ)にセットされた2つのピンを支点に、足がシーソーの様に動きます。テコの原理で増大した加重の力は、トゥエッジ、ヒールエッジへと効果的にボードへ伝わります。
実際のターンでは、少ない力でエッジにプレッシャーがかかり、力強いホールド感を実感できます。この力はブッシュをハードにすることで、よりプレッシャーを、ソフトにすることで、シーソーする可動域が大きくなり、荒れた午後のバーンの凹凸にも煽られずに踏み込んでいけます。
この仕組みが多様化するスノーボードの形状を解読する鍵となり、フリーライディングの可能性を大きく広げる事となりました。SKATE TECHのニーズを高め、NOWをメジャーブランドへ押し上げた功労者は、JONES SNOWBOARDSのオーナー、ジェレミー・ジョーンズです。
②ハンガー(ベース)
スケートテックは、台座となるハンガーとディスクをセットするポストで構成され、ボードとビンディングの間には、3段階のフレックスが選べるゴム素材のブッシュパーツがあります。これもスケートならではの発想です。
ハンガーには2つのバージョンあります。ヒールカップが狭く設定されたハンガー1.0と、後にリリースされた幅広のハンガー2.0です。
1.0ではブーツの種類によっては干渉する事がありましたが、2.0はより多くのブーツにフィットするよう改良されました。他ブランドと同じような足入れ感を求めるならハンガー2.0のモデルを選びましょう。ハンガー1.0のモデルを選ぶ際は、ブーツサイズとの相性を確認することをお勧めします。
ハンガー2.0はこの記事でご紹介しているIPO(2020-21シーズン), PILOT, DRIVEにも採用されています。厚手のブーツや大きめのブーツにもフィットし、窮屈さがありません。また、滑走中、内側に足を入れやすい様にフレームの内側が外側よりも低く設定されています。この左右非対称もハンガー2.0の特徴です。
素材は、ナイロンとショートファイバーグラス(15%)の混合で、ビンディングとしてはかなり柔らか目です。例えば、BURTONのビンディングと比較すると、15%ものショートファイバーグラス混合率のモデルはWOMENSモデルにも見当たりません。
③ストラップ
NOWのもう一つの顔となっているのがアンクルストラップSIEVA(シーヴァ)です。IPOの他、NOW×YES、VETTA(WOMENS)に採用されています。
SIEVAとは、シングル・インジェクト・EVA(鋳型成形)の略で、軽量で水を吸いにくく耐久性に優れている他、ダイオキシンを発生させない環境にも優しい素材であることから、ブーツのインナーやビンディングのベースプレート等スノーボードギアに広く使われています。
NOWは、そのSIEVAの中に強力なナイロンベルトの芯を入れることで、あらゆるブーツのアンクル部分にフィットしつつ、柔軟性や耐久性を兼ね備えたアンクルストラップを完成させました。フィット感が抜群で、タイトに締めても足首に負担がかかりません。柔らかいブーツが好きなスノーボーダーには特に試してもらいたいストラップです。
④ハイバック
独自のベースプレート「ハンガー」を用いた事で、ヒールカップやハイバックの高さ、形、フレックスにも制限が無くなりました。NOW愛用者の多くは、踵とハイバックの安定感を特に評価しています。中でも、後方に曲がるフレックス・ヒンジ・ハイバックはヒールサイドターンの時にふくらはぎにかかる負荷を軽減し、ターンの質を向上させます。
2019-2020シーズンをNOW IPOで過ごした藤谷 瞭至くんは、フレックス・ヒンジ・ハイバックのねじれと跳ね返りを利用してジャンプをしていました。なるほど、こんな使い方もあるのかと驚きました。ハイパフォーマンスをするライダー達から生まれた機能を、身体で感じて上手にパフォーマンスに生かしていく様子に、面白さを感じます。
IPO|アップデートを重ねるエントリーモデル
NOWのスケートテックを体感するなら、まずはIPOをチェックしてください。本来はエントリーモデルですが、そのクオリティは年々向上しています。2019-20シーズンは、新たに採用されたハンガー2.0がにより、可動域の特徴をより引き出すことにも成功しました。
一皮剥けたIPOは柔らかく、操作がしやすいので、リゾートをクルージングしたり、ボードを足下で捌きながらジビングを流すパークライダーやツリーライダーにとっても絶妙なフレックスです。
2019-20シーズンのIPOは、サーフブランドCAPTAIN FINとのコラボレーションモデルとして発表されましたが、2020-21は再びIPOを全面に押し出す形でのリリースとなります。また、ベースハンガーがPILOTクラスと同じ硬度になるとのことで、IPOの柔かさが失われないかが明暗を分けるポイントとなりそうです。
IPOが今の姿までアップグレードされる以前のNOWは、ミドルクラス以上のモデルでやっと良さが感じられるブランドでしたが、今となってはエントリーモデルまでもが立派なモデルとして成長しました。
サーフィーなブランドとコラボされたモデルだけあり、YES NOW BOARDのTHE420や、SPRING BREAKのSLASH SLASHERの様にタイトなツリーランを攻め込むショートファットボードにも最適です。
類似モデル:UNION CONTACT PRO, 2018-19のULTRALTD
推奨スノーボード:ソフトフレックスなキャンバー、あるいはショートファットパウダーボード
PILOT|高速域を得意とするパワフルなモデル
NOWの中でミドルクラスに分類される PILOTは、スピーディーなフリーライディングからビッグジャンプまで幅広く対応します。ハイエンドモデルと同一素材の硬いハンガーは、高速域を意識したモデルの証拠です。
ハイバックやアンクルストラップにも、スピードとパワーに耐えられる機能が備わっています。フレックスヒンジハイバック2.0は、パワーを受け取るエリアが広い為、常にボードにプレッシャーをかけ続けることができます。ハイバック上部のヒンジでようやくパワーを逃すので、踵全体でパワーを伝えられるデザインです。ヒールカップが高いNOWの固定力を最大限に生かしたモデルと言えるでしょう。
その反面、パワーを要するモデルでもあるので、体力を消耗する長時間ライディングは計画的に。ハイキャンバーベースでハードフレックスなボードとの相性は抜群。ディレクショナルボードでノーズロッカーがある様なボードのポテンシャルを存分に引き出します。
HOME TOWN HEROやFLIGHT ATTENDANT、LIBのTITY FISH等。大規模リゾートが沢山ある北海道によく似合うバインディングです。
類似モデル:GENESIS X, UNION ULTRA(19-20), ATLAS(20-21)
推奨スノーボード:ディレクショナル・キャンバーのスノーボード
DRIVE|疲れ知らずのドリームバインディング
NOWをメジャーブランドへ押し上げた功労者の一人、ジェレミー・ジョーンズのシグネイチャーモデル。
オーバースペックのスノーボードでも簡単に扱えてしまう程のパワーを持ち、乗り手を選ばず疲れにくい設計です。特に、体重があり楽に荷重したい人にとって、夢のバインではないかと思います。
フレックスレートは硬く、いかにもハイエンドな立ち位置ですが、カフハイバックの根元が肉抜きされていて、驚くほど柔軟。
また、フォワードリーンは、ハードバーンやパウダー、ツリーランといったシチュエーション毎に選択可能です。
一つリクエストするなら、フレックス・ヒンジデザインを取り入れて欲しいところです。
レスポンス的にNGなのかもしれませんが、後方にフレックスするこのデザインなら、フレックス・ヒンジデザインによって、スケールの大きな山でもより一層疲れにくい仕上がりが目指せるのではないでしょうか。また、フォワードリーンを要するタイトなツリーランでも圧迫感なく攻め切れる予感がします。
DRIVEは、サイドカーブが小さくウェストが太いボードにフィットするモデルだと思います。
手に入れたスノーボードがちょっとパワフルだと感じたら、手放す前にこのビンディングを検討してみてください。
それぞれの特性が掛け合う事で、じゃじゃ馬ボードが扱いやすくなる可能性が期待できます。
類似モデル:X-BASE
推奨スノーボード:サイドカーブの無い曲がらないボード
IPO × RYOJI FUJIYA
スロープスタイル競技で戦うプロスノーボーダー藤谷 瞭至君は、19-20シーズンよりIPOを使用しています。
どんなギアでも使いこなす器用さと高い身体能力を兼ね備える彼は、道具に求める条件がとても少ないタイプです。僕は兼ねてから「プロとして戦っていくには、彼自身が良いと感じるバインを見つけ出す必要がある」と考えていました。そこで、色々なバインを実際に乗り比べる中で、道具との相性や好みを見つけ出してもらおうと計画しました。
まずはパークライディングでの相性が良いと言われるUNION STRATAや、一般的に人気のBURTON CARTELに乗せてみましたが、本人の反応はいつも通り。次に、NOWのIPOを試すと、明らかな違いを感じた様でした。
IPOの特徴
瞭至「大きな特徴は、軽さだと思います。特に着地での信頼感がありました。パークエアーで、3本ともトゥエルブを決められたのは、IPOのおかげだと思います。」
バインの良さを感じた部分
瞭至「着地では、若干トゥーに乗るようにしています。硬いバインだとジブでバランスが取りにくくなってしまいますが、IPOの全体をがっちり固定されている安心感が好きです。」
選手として今以上を目指そうとしたとき、信頼できる道具に出会うことは、大会に向けたメンタル面の支えにもなります。若い選手たちは仲間内での貸し借りや試乗会を活用し、より多くのギアに触れ、自分のスタイルを磨いてもらいたいと思います。
2004年6月20日生
北海道平取町出身
レギュラースタンス
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DRIVE × SHOTA MOROHASHI
僕がDRIVEに目を向けるきっかけとなったのは、元々NOWの初期モデル”SELECT”を愛用していたSさんからの情報でした。
19-20モデルの試乗会でDRIVEを試したところ「乗り難さを感じていたボードが一気に乗り易くなった」と言うのです。
DRIVEは、スティープな山を駆け下りるジェレミー・ジョーンズ(JONES SNOWBOARDS)のシグネイチャーモデルです。そのハードなライディングのイメージから、限られた人に向けたモデルだろうという先入観を持っていましたが、Sさんの話を聞いて僕もDRIVEを使ってみることにしました。
DRIVEの最初のテストは2019年3月のトマム。ショートターンを切り込んでいくBURTON SPEED DATEにDRIVEを乗せて、1日滑りました。
最も印象的だったのは、足が疲れにくく、無理をせずに1日過ごせた事。
SPEED DATEは、エッジ to エッジの素早さを楽しむボードですが、DRIVEでは、小さなターン弧でもエッジのホールド感を十分に楽しめました。
僕のレベルでも違いがハッキリと感じられたので、中級以上のスノーボーダーのアイディア次第、スタイル次第で面白い引き出しがまだまだあると考えられます。
19-20シーズンはDRIVEをLIB TECH TITY FISH 160Wideへ乗せました。
このボードはウェストが太くサイドカーブもない為、ターン弧が大きく下へ下へ落ちるボードです。
160Wideをチョイスしたのには、曲がりにくいボードで如何にボードを倒して行くかという僕なりの課題があったのですが、BURTON X BASEをもってしても、直線的なボードの動きに変化はありませんでした。
そこで、DRIVEへ付け替えると、面白い程荷重が伝わり、曲がりやすくなりました。
僕の感覚では、ボードのサイドカーブ半径が8mを超え、ウエストが25.8cmを超えてくると、特に効果が感じられると思います。
また、ブッシュはミディアムとハードをシチュエーションに合わせて使い分けました。
荒れたバーンでミディアムを使用すると、オートマチックに力を分散させてくれます。距離の長いバーンでは特に、スケートテックの効果を鮮明に体感できると思います。
一方、レスポンスが必要なツリーランなら、ハードブッシュでアドバンテージが得られました。
僕は1日のライディングの中でツリーランも滑りたいので、ハードをメインに使う事が多かったです。
ブッシュの硬さによって、シチュエーションやライディングスタイルに対応するというスケートテックのユニークな発想。少し手間はかかるかも知れませんが、実際にブッシュを付け替えて比較すると、オリジナルスタイルの追求の手掛かりになるのではないでしょうか。
大変分かりやすくご説明していただきありがとうございました。
教えていただいたことを参考にして、検討したいとおもいます。
ご丁寧にありがとうございます。
Wingは確かに幅が広くultra fcでは板のしなりや粘りを殺してしまう感はありました。
Birdmanとの好相性具合も楽しんでみたいと思います。
Driveは確かに当初から気になっていたので感覚次第では来シーズンの筆頭候補ですね。
硬さからdartにも合いそうですし、逆にhpsはipo面白いのかなとか色々考えてしまいますね。
大変ご丁寧にありがとうございました。
参考にさせて頂きます。
初めまして、いつも楽しく記事を読ませて頂いております。
そちらのお店で購入した訳ではないので質問するのも失礼かもしれませんが、アドバイスを頂きたくお願い致します。
今シーズンモデルのpilotを購入し、現在どの板と合わせるか非常に悩んでいます。
というのも、購入したショップの方のインプレや個人的にも色々調べてbrigade以上drive以下のイメージを持っており、比較的柔らかい板にも合うのかな?と思っていましたが、こちらの記事ではパワーやスピードといったワードがよく見られ、思ったより硬い板も良いのかも?と思い始めました。
現在持っている板はJones mind expander(1st)、Salomon HPS(1st)Libtech Birdman(4th)Korua dart(19-20)moss snowstick wing sw(19-20)で、シーズン通してゲレンデ5 サイド&ツリー4 BC1くらいの割合です。
これまではUnionのUltra fcをメインにしサブでforceを使用していましたが、もう少し板のフレックスを活かせるビンディングチョイスをと考え元々ジェレミージョーンズが好きだということもありnowを手に入れたという感じです。
前置きが長くなってしまいましたが、オーナーさまの知識や経験からpilotを合わせて面白く滑れそうな組み合わせをアドバイス頂けましたら嬉しいです。
こつぶ さん
いつもご覧いただきありがとうございます。
ULTRA FCをメインにお使いだったとのことから、PILOTはこつぶさんにとって多様に使いこなせるバインだと思います。
NOW BINDING特有の効果は、サイドカーブが無いボードや、太めのボードで発揮されます。
僕自身、こつぶさんご愛用のボードは乗ったことが無いので、あくまでデーター上でお答えするしかできませんが、MIND EXPANDER, BIRD MAN, WING SWは好相性だと予測します。
特に、WING SW x PILOTは、BCで良いパフォーマンスを出してくれるのでは?という期待を持ちました。
個人的にはBIRD-MANがパーフェクトセットアップだと考えますが、もしも、PILOTの使用感が気に入ったら、次はBIRD MAN×DRIVEもお試しいただきたいです。
またNOWは、ブッシュによる変化も大きいです。既に多くのボードをお持ちなので、是非自分好みのセットアップを見つけてください!また、発見や感想などがあれば是非お寄せいただければ嬉しいです。
PILOTとIPOで悩んでいます・ボードはGENTEMSTICKのMANTRAY ブーツはBURTONのPHOTON BOAです。
どちらがいいでしょうか。
金子さん
ギアの使用感には個人差がありますので、ご提案する際はパーソナリティ(身長体重/スノーボード歴やレベル/滑るエリアや頻度/ギアに求める要素等)を重視しています。
お書き頂いたセットアップ情報のみで、PILOTかIPOかをお勧めするならIPOです。理由は、北海道のGENTEMユーザーの方はゆったりと雪を楽しむ方が多いと思うからです。ハードなライディングをされる方であればPOLOTが適しています。
参考になれば幸いです。