知れば、バートンボードがもっと好きになる
せっかく手に入れたボード、愛着を持って長く乗りたいですよね。その為には、ご自身でも最低限のお手入れをしていただく必要があります。
では、お手持ちのボードが、どこで、どんな素材で作られたものか、どんなお手入れが適しているのかをご存じですか?
スノーボードブランドとして長い歴史を持つBURTONでは、年式、生産地、価格帯によってもボードの特徴は様々です。
BURTONボードの変化や傾向と、それに応じたチューンナップのポイントを、全3回に分けて公開します。
- ①バートンボードの発展/工場とソールの変化
- ②年代別バートンボードの特徴とチューンナップテクニック
- ③MOJANEが行うBURTONの為のチューンナップ
バートンとスノーボード
スノーボードブランドBURTONが誕生したのは1977年。2022年には設立45周年を迎えます。
この間にスノーボードは「木の板で裏山を滑る雪遊び」から、「冬季アクションスポーツの代表種目」へと進化を遂げました。
飛躍的な発展は、道具からも見て取れます。ボードにビンディングを取り付ける穴を自分で開けなければいけなかった時代から、統一規格4×4が生まれ、現在の主流2×4、3Dパターン、THE CHANNELへと進化しました。
特に2000年代最初の10年は、多くのスノーボードブランドが開発を競い合った結果、ボードの素材・形状・製造技術に至るまで、目まぐるしい程の変化が起こりました。2015年以降は、業界全体がスローペースに落ち着いていますが、各ブランドが個性を生かしながらギアの精度を高める開発が続けられています。
こうしたシーン全体の流れの中で、常に最前線を走ってきたBURTON。スノーボード用品の総合ブランドという強みを武器に、常に新しい規格と価値観を提示してきました。
年代ごとに見受けられるバートンボードの特徴は、挑戦の証でもあるのです。
BURTONの3大ファクトリー
BURTONからは、毎年数多くのニューボードがリリースされます。2000年代前半まではMADE IN CANADAの表記もありましたが、現在は生産数の多い順に中国、オーストリア、アメリカ(バーモント)、3ヵ国の工場で作られています。
MOJANEで扱うBURTONボードは、オーストリア製が中心です。僕たちの大好物CUSTOMXをはじめ、CUSTOM、FAMILYTREEの一部、20-21シーズンのSTORY BOARDもオーストリアで製造されています。
バートンの低価格帯ボードの多くは中国製ですが、エントリー層からキャリア組までが楽しめるPROCESSは、6万円台でありながらオーストリア製です。これは、BURTONがプッシュしている結果と捉えています。
また、工場による仕上がりの違いはもちろん、木材を使った製品なので、同一モデル内での個体差も少なからずある、と僕は考えています。
MADE IN AUSTRIA
オーストリアのスノーボードファクトリーKEIL-SKI。その名の通り、元は老舗のスキー工場です。ここでは主にFAMILY TREEやハイエンドモデル、BURTONがプッシュしているであろうモデルが作られ、それらには「Made in Austria」と刻印されています。
MADE IN CHINA
中国の工場で作られるモデルも多くなってきました。かつては「中国製はローエンドモデル」というイメージが強くありましたが、今やTHINKERS、一部のFAMILY TREE、FEELGOODなども中国製。既に時代は中国製=低価格帯のボードという事ではなさそうです。
因みに、中国製のバートンボードには「Made in china」の表記はありません。中国製がスタンダードになった証なのでしょうか…。捉え方は人それぞれです。
MADE IN CRAIGS
そして、BURTONファンの憧れと言えば、BURTON本社の敷地内にあるプロトタイプ工場CRAIGS(Made in Vermont)です。
クレイグ・ケリーの名が付けられたこの工場では、ニューボードの開発やバックヤードプロジェクト等の限定ボードが生産されています。僕たちの手に届くボードとしては極めて限定的ですが、BURTONの核となる場所です。
ソールの変化と転換期
1998年以前のバートンのソールについては把握しきれていませんが、僕の見てきた限りでは中国製のローエンドボードにはエクストルーテッドソールが多く、中国製の中でもハイエンドモデルにシンタードベースを採用していることが多いです。オーストリア、バーモント(クレイグス)、カナダ製、のボードはシンタードベースが多い印象です。
エクストルーテッドソール
強度の高いソールです。レールやボックスといった人工物を当て込むのに適し、BURTONではローエンドモデルやキッズボードに採用されています。
基本的にはワックスは浸透はしませんが、もし塗布するならば、柔らかいワックスを塗りっぱなしで乗って問題ありません。DOMINATOR EX PASTEは使い勝手が良いのでお勧めです。チューンナップのコツは、神経質にならない事です。
シンタードベース
現在の主流となっている、滑走性に優れたソールです。ワクシングを繰り返すことで、ソールの質が向上していきます。逆に言うと、お手入れが欠かせないソールです。
ワクシング後や滑走後には、ブラッシングで整える事を習慣にしましょう。また、ソールに深く傷がついた場合は必ずリペアする事をお勧めします。
BURTONが高密度ポリエチレンのシンタードベースを採用したのは1995年よりも前だったと思いす。シンタードベースには様々なアレンジが加えられ、10年後にシンタード・ビジョンベース、シンタードWFOベースが登場。その他にシンタードベース、エクストルーテッドベースと開発が続き、モデル毎に使い分けてきました。
レビュアーの平山君は、試乗会で「このモデルがシンタードWFOだったらなぁ…」と呟いていることがあります。
シンタードWFOベースは予めワックス成分が配合されているので(具体的にどの様な構成かは分かりません)、セルフワクシングでも滑走性能を維持しやすいソールだと言えます。
ちなみに、2017シーズン頃からリサイクルシンタードWFOベースに変更され、使用感にも変化がありました。僕はその違いを語る自信はありませんが、平山くんの好みは通常のシンタードWFOでした。
すべてのシンタードベースはワクシングにより滑走性が向上する性質に変わりありませんが、どのモデルにどんなベースが採用されているのかは、スノーボードギア好きには興味深いポイントです。BURTONのオリジナルシンタードベースをいくつかご紹介しましょう。
リサイクルシンタードWFOベース
予めワックス成分が練り込まれているソールです。基本的にはシンタードベースと同様に考えて良いと思います。
オンライン販売が盛んになった頃から出現したもので、「パッケージを開けたらそのまま滑れるように」と作られたのだと推測します。ローメンテナンスでそこそこの滑走性が手に入るというのも便利ではありますが、持続性があるのかどうか…。ワクシングでソールを作り込むに越したことはありません。
メスロンベース
滑走性と耐久性を兼ね備えたソールです。ワックス成分に頼らず、テフロンを練り込んだ素材を使用しています。
春特有の汚れがつきにくく、常に最高のスピードを、というコンセプトで作られています。CRAIGSモデル限定で、主にMYSTERYシリーズにのみ使われています。こちらの滑走面は、プレチューン後、特に何のお手入れも要しません。
もちろん、お手入れをすればするほど応えてくれるソールですが、BURTONの謳い文句としてはワクシングすら入らない夢のソールだ、ということです。
シンタード・ビジョンベース
BURTONが開発したシンタードベースの中でも、ちょっと風変わりだったのが2005年頃に登場したシンタード・ビジョンベースです。
ソールの素材が硬く、サンディングすればケバ立ちが目立ち、ワックスも入りにくかったため、ショップ泣かせだったと聞きます。
シンタードビジョンベースに関しては、僕自身分からないことが多いので、研究中です。
BURTONのソールに凹凸が出現した2つの要因
①チャネルによる凸凹
バートンボードの仕上がりに大きな変化があったのは、2008年に発表されたTHE CHANELです。
THE CHANNELでは、セッティングの自由化を実現するため、複雑に配列されたコア(木製の芯材)の中心に、金属製のレールが組み込まれました。 そのレールが、バートンボードのソールに凸凹が目立つ様になった大きな要因です。
この凹凸をソールサンディングでフラットに出来ますか?という質問をお受けする事がありますが、構造上不可能です。無理にフラットに削ろうとすると、ソールの表層のポリエチレンの一部を剥ぎ取ってしまう事になります。
ソールの凹凸は滑走性能を低下させている?
THE CHANNEL搭載ボードのソールに見られる凹凸についてBURTONは公式に「ライディングに影響はない」と発信しています。
MOJANEも同じ見解です。フリースタイルスノーボーディングにおいて、必ずしも滑走面がフラットである必要は無いと考えています。
なぜなら、完璧にフラットな滑走面では、ストラクチャーが無ければ、表面張力によりボードが雪面に張り付いてしまうからです。THE CHANNELの微妙な凹凸は、逆に有利に働いていると考えることもできます。
THE CHANNELボード、インサートホールのバートンボードよりも良くなった?
クラフト的な意味での完成度は、後者の方が高かったと思います。完成度の高いボードは見るだけでも楽しめます。ただ、ボードそのものの美しさと乗り味は、別の問題です。
テックに頼らない時代のボードを知る人にとって、近年のバートンボードに「チープさ」を感じるのは、僕も同感です。コスト削減など製造者の都合もあるでしょう。ですが、ソールに凹凸があったとしても、BURTONボードの軽量化、滑走性、操作性といった機能はむしろ向上しています。
それはJAKE BURTONがテーマに掲げていた”RIDE FEELの追求”でもあると思います。
面倒な作業を極力なくし、誰もが気軽にスノーボードを楽しめるように、ライディングに没頭できるようになりました。バートンが最新のフリースタイルボードに求めているのは、あくまでも使い勝手だという事です。
ただ、個人的には、かつての木材の自然な乗り味と重厚感のある精密なボードを、一度は体験して欲しいと感じています。
②2015年までのダイカットの凹凸
ソールのデザインの技法のひとつで、型抜きした文字やロゴが埋め込まれているものをダイカットと呼びます。
2015年頃までは、バートンも多くのデザインやFAMILY TREEのシンボルマークなどで挑戦したものの、なかなか精度が高まらず、埋め込み部分に凹凸がみられました。最も仕上がりがひどかったのは、初のTHE CHANNELと制度の低いダイカットが組み合わさってしまった2008年のX8ではなかったでしょうか。
この凹凸は、またしてもソールクリーニングとワクシングでのスクレーピングを困難にしました。スクレーパーが引っ掛ったり、ダイカットのでっぱり部を削りすぎてしまったり。特に、ニューボードに施工するプレチューンでは、見た目を損なう危険性があり、悩ましいものでした。
また、T6、CUSTOM Xといったコンペ向けのモデルにも、未完成のダイカットが採用されていた事を思うと、これらに乗っていた選手たちは人知れず苦労したのではないでしょうか。
現在では、当時の様に大胆なダイカットデザインを採用しているコンペモデルはありません。CUSTOMやCUSTOM-Xもプリント仕上げです。
FAMILY TREEでは、20-21シーズン以外はダイカットが採用され続けていますが、当時の凹凸は解消され、綺麗に仕上がっていると思います。
BURTONチューンナップメモ①のまとめ
この記事では、バートンボードが作られている工場や、バートンが開発した様々なソール、そして多くの人が疑問を持っているソールの凹凸ついて、簡単にご紹介しました。
BURTONボードのスペックは、モデル名や画像検索で概ね調べることができます。昔のボードについても、親切な方が詳しく書き残してくれていたりするので、そういった情報収集も楽しいと思います。まずは自分のボードはどんなモデルなのか、どこで作られているのか、興味を持ってもらえたら嬉しいです。